- Bさん:73歳 男性
- 子供は独立し、妻と二人年金暮らし。頻尿で受診した泌尿器科で高PSA値を指摘された。
Bさんは頻尿のため受診した泌尿器科で前立腺がんの腫瘍マーカーである血中PSA(前立腺特異抗原)値が高め(6.2ng/mL)と指摘されました。主治医からは「年齢を考えるとグレーゾーン(4.0~10.0ng/mL)ですから、定期的にPSAを測りながら経過観察しましょう」と言われたのですが…。
「経過観察って、何もしなくて健康上問題ないの?」と心配になった
「結果を聞いたときはPSAって何だ?くらいの認識でした。確かに残尿感があったり、頻尿気味でしたが歳も歳だしね。で、病院に行ったら“経過観察しましょう”と。最初は、ああそうですかと思ったのですが、後から“本当に大丈夫なんだろうか”と心配になってきました」(Bさん)。
血中PSA値が高い場合に考えられる病気は、前立腺がん、前立腺肥大症、前立腺炎などで、高PSA値だから前立腺がんというわけではありません。正しく診断するには、直腸診・経直腸エコー検査と前立腺の組織を採取して調べる「生検」が必要です。
前立腺がんの生検では、下半身もしくは全身麻酔をして、超音波(エコー)画像で前立腺の状態を見ながら細い針で前立腺を刺して組織を採取します。通常は10〜12ヵ所に針を刺すことが多く、検査後は安静が必要なので1〜2泊の入院を要します。
近年は、過剰な医療や、侵襲(身体の負担)が大きい検査や処置を避けることが当たり前になってきました。前立腺がんはタイプによっては、非常に進行が遅く「一生無症状のまま、天寿をまっとうされる」方も少なくない1)こと、また前立腺がんの生検は比較的侵襲が大きいことから、PSA値がグレーゾーンの場合は、年齢を考慮したうえで定期的にPSAを測りながら経過観察を行うことがあります2)。
「検査値に一喜一憂して、検査日が近づくと鬱っぽくなる」
一方で「経過観察=何もしない」と思い込んでしまい、精神的な負担を感じる方もおられます。向き不向きがある方法だといえるかもしれません。Bさんも3ヵ月ごとに知らされるPSA検査の結果に一喜一憂し、検査日が近づくと悲観的になって落ち込んだり、イライラして家族にあたるようになったりしていました。
腫瘍マーカーは確実な診断手段ではありません。しかし、がんの進行や治療を始めるべきタイミングを知る大切な手がかりになります。PSA検査の意味を理解することで、検査値が「生命を脅かす数値」から「生命を守るために、監視してくれる数値」へと変わってくると思います。
また医師は検査値だけでなく、症状やその他の検査結果から総合的に治療方針を決めています。今の診療方針に不安がある場合は、まず主治医と相談しましょう。先生の言うことを聞く「よい患者」であろうとしなくてもよいのです。例えば「白黒をつけた方が、自分は安心できるかもしれません」「他の方法はありませんか」と聞いてみましょう。また前立腺がんという病気の特徴や、PSA値が上昇したときの次のステップについて主治医から説明してもらうとよいかもしれません。
1)Kimura T et al.J Urol. 2016; 195: 1415-1420
2)日本泌尿器科学会 編. 前立腺がん検診ガイドライン 2018年版; CQ31 p124-126, メディカルレビュー社
- 監修:
- 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生