5食道がんの手術

手術の種類と進め方について教えてください

食道がんの手術は、消化器の手術の中でももっとも難しいと言われており、手術時間も長時間に及ぶことが少なくありません。
食道がんの手術は、どこに、どれくらいのがんができているかにより、方法は異なりますが、病巣がある食道と周囲のリンパ節を切除し、失った食道の再建を行うという点では共通しています。

手術で行う3つのこと

食道の切除

  • がんの病巣に加え、正常にみえるまわりの組織も切除して、がんの取り残しを防ぎます。
  • 頸部けいぶ食道がんでは、声帯や気管を切除することがあります。
  • 胸部・腹部食道がんでは、胃の一部を切除することもあります。

リンパ節の切除

  • 転移がみられたリンパ節に加え、転移予防のために、がんの病巣周囲のリンパ節を切除します。
  • 進行しているほど、リンパ節の切除範囲は広くなります。

食道の再建

  • 食べ物を胃まで送れるように、新たな通り道をつくります。
  • もっとも多いやり方は、胃を持ち上げて細く管状にして、頸部食道とつなげるやり方です。
  • 小腸や大腸の一部を切り取り、失った部分に移植する方法もあります。
国立がん研究センター がん情報サービス「食道がん」
日本食道学会 編:食道癌 診療ガイドライン2022年版, p59-85, 金原出版, 2022

頸部けいぶ食道がんの手術

切除範囲を小さくするために、手術の前に化学放射線療法を行うこともあります。喉頭こうとうを温存できるかどうかは術後の生活に大きく影響しますので、治療の前に主治医としっかりと相談しましょう。

喉頭を切除する場合

声帯が失われる

  • 自然な声を出せなくなりますが、リハビリで発声法の訓練をしたり、器械を用いて会話ができるようになります(「発声しにくい場合」参照)。

首にあなをあける

  • 喉頭を切除すると、鼻や口から吸い込んだ空気を肺に送ることができなくなります。
  • そのため、気管を鎖骨の上の部分の皮膚につなぎ、空気を直接気管に送るための孔(永久気管孔えいきゅうきかんこう)をつくります。
  • 手術後は、この孔を通じて呼吸をすることになります。
喉頭を切除する場合

食道の再建

  • 小腸の一部を10センチほど切除して、失った部分に移植するやり方が一般的です。
  • 喉頭を切除した場合には、呼吸をするための永久気管孔をつくります。
食道の再建

胸部食道がんの手術

胸部食道がんの手術は、切除する食道とリンパ節の範囲が食道がんの手術の中でもっとも広く、大きな手術になります。一般的に右胸部と頸部けいぶと腹部を切開し、胸部食道のすべて、あるいは腹部食道も含めて、食道のほとんどすべてを切除します。転移や再発のリスクを減らすために、頸部、胸部、腹部のリンパ節を取り除きます。

食道の再建

食道の再建

胃を持ち上げて新たな通り道をつくる

  • 胃を持ち上げて、残った頸部食道とつなぎ合わせます。
  • このような新しい通り道のことを「胃管いかん」と言います。
  • 胃にもがんがあり、胃が使えない場合には、大腸を移植して再建することもあります。
  • 再建した食道を通す経路は、以下の3つです。胸骨の後ろか背骨の前を通す方法が一般的です。
胸骨の前
胸骨の後ろ
背骨の前

腹部食道がんの手術

腹部食道がんは、胃との境目に近いこともあり、「食道胃接合部がん」と呼ばれる場合もあります。最近、ここに逆流性食道炎が原因のせんがんができることが増えています。食道胃接合部がんの上下2センチの中でも食道側にできると胸をひらいて胸部の食道を大きく切除し、胃側にできるとおなかから下部の食道を部分的に切除します。

腹部食道がんの手術

内視鏡手術について

からだの中をモニターに映しながら細長い鉗子かんしで行う、胸腔鏡きょうくうきょう手術、腹腔鏡ふくくうきょう手術が最近増えています。からだの表面にいくつかのあなをあけて、器具を挿入して行います。近年、受けられる医療機関が増えています。からだへの負担が少ないことが大きなメリットですが、手術時間は長めで、がんが高度に進行した人では、受けることはできません。

ロボット手術も保険適用に
2018年4月から、内視鏡下手術支援ロボットが食道がんに保険適用になりました。医師が4本のロボットアームを遠隔操作で手術を行うというもので、近年、さまざまながんで使用されるようになってきました。治療法の詳細については、専門の医師に相談してみましょう。
ロボット手術も保険適用に

医師が手元のハンドルを操作すると、それに応じてロボットアームが動き手術が進む

国立がん研究センター がん情報サービス「食道がん」
日本食道学会 編:食道癌 診療ガイドライン2022年版, p59-85, 金原出版, 2022
監修:
大阪大学医学部医学系研究科 外科学講座消化器外科学 教授
土岐 祐一郎 先生

(2024年8月作成)