6膀胱がんの外科治療

膀胱がんの外科治療について教えてください

膀胱がんの外科治療は、「内視鏡」でがんを切除する方法と、「外科手術」でがんを切除する方法があります。

膀胱がんの内視鏡手術(TURBT)について

膀胱がんの内視鏡手術は「経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)」が使われます。麻酔をかけ、尿道から内視鏡を挿入して電気メスでがんを切除します。開腹手術に比べると体への負担が少ない治療ですが、切除後の組織診断で再発リスクが高い場合や周囲に広がっていることがわかった場合は、追加の治療(再度のTURBT、外科的切除、膀胱内注入療法など)が必要になることがあります。

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)

経尿道的膀胱腫瘍切除術

尿道から内視鏡を挿入して、膀胱内を観察しながら電気メスでがんを切除します。
手術は麻酔をかけたうえで行われます。

TURBTの主な合併症

血尿や頻尿、排尿時の痛み、細菌感染による発熱などが起こることがあります。施術中は膀胱壁ぼうこうへきに小さな穴があくことがありますが、カテーテルを長期に留置することで多くの場合改善します。

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん」
日本泌尿器科学会編:膀胱癌診療ガイドライン2019年版, p5, p28-32, 医学図書出版, 2019
もっと知ってほしい膀胱がんのこと, p8, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2015

外科手術

膀胱がんでは、膀胱と周囲のリンパ節を切除する「膀胱全摘除術ぼうこうぜんてきじょじゅつ」が基本となります。「尿路変向術」もあわせて行われます。

筋層浸潤性の膀胱がんに対しては、多くの場合「膀胱全摘除術」が行われます。標準的な手術法として、男性では膀胱、前立線、精のう、尿管の一部、骨盤内のリンパ節を摘出します。尿道は、再発リスクや手術の方法(術式)によって切除する場合と切除しない場合があります。女性では膀胱、子宮、腟や尿管の一部、骨盤内のリンパ節を摘出します。
手術では、尿の新たな通り道を作るための「尿路変向術」もあわせて行われます(こちらをご参照ください)。

外科手術

外科手術の主な合併症

つなぎあわせた部分が開いたり(縫合不全ほうごうふぜん)、癒着ゆちゃくによる腸閉塞ちょうへいそく、感染症による発熱などがあります。またリンパ節を切除することでリンパ液の流れが滞り、下肢にむくみが生じることがあります(リンパ浮腫)。前立腺や精のうを摘出すると、性機能に障害が起こります。

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん」
日本泌尿器科学会編:膀胱癌診療ガイドライン2019年版, p66-69, 77-78, 医学図書出版, 2019
もっと知ってほしい膀胱がんのこと, p8-11, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2015

膀胱全摘除術による切除範囲

膀胱全摘除術による切除範囲

※切除範囲は患者さんの状態によって異なります。

手術方法

  • ●手術方法は、おなかを開いて切除する方法(開腹手術)と、おなかに小さなあなを数ヵ所開けてカメラや器具を挿入して切除する方法(腹腔鏡下手術)があります。近年ではロボット支援による腹腔鏡下手術も広く行われています。
  • ●手法は異なりますが、切除する範囲は同じです。
開腹手術

腹部を開いて、目で確認しながらがんがある臓器やリンパ節を切除します。

腹腔鏡下手術(ロボット支援手術)

腹部に入れたカメラの映像を見ながら、鉗子かんしを用いてがんがある臓器やリンパ節を切除します。現在ではロボット支援手術が広く行われています。

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん」
堀江重郎 他 編:膀胱癌診療最前線, p115, 125, 142-145, メジカルビュー社, 2017
小島祥敬 監修:泌尿器がん 術前術後管理のすべて, p96-100, MCメディカ出版, 2021

尿路変向術

膀胱を摘出したときは、尿を溜めておく場所と尿の出口が必要になります。
そのための再建手術を「尿路変向術」といい、膀胱の摘出手術とあわせて行われます。
主な方法は、「回腸導管造設術かいちょうどうかん」「自排尿型新膀胱じはいにょうがたしんぼうこう造設術」「尿管皮膚瘻にょうかんひふろう造設術」の3つがあります。それぞれ方法や特徴、注意点などが異なりますので、主治医や看護師によく確認し、ご自分の生活スタイルに合わせて選択することが大切です。

参考:尿路変向術の種類と特徴

①回腸導管造設術②自排尿型新膀胱造設術③尿管皮膚瘻造設術
長所
  • 合併症が少ない
  • 手術時間が短い
  • ストーマをつくる必要がない
  • 尿道から尿を出すことができるため見た目は変わらない
  • 手術方法が簡単
  • 手術時の負担が少ない
注意点
  • 集尿袋が必要
  • ストーマ周囲の皮膚がかぶれやすいのでこまめな手入れが必要
  • 手術時間が長く術式が複雑
  • 尿意を感じないため4~5時間に1回程度尿を出す必要がある
  • 尿失禁が多い(特に夜間)
  • 集尿袋が必要
  • ストーマの合併症などのトラブルが多い
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病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版, p277, メディックメディア, 2019より改変

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん」
もっと知ってほしい膀胱がんのこと, p10-11, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2015
堀江重郎 他 編:膀胱癌診療最前線, p220-223, メジカルビュー社, 2017

尿路変向術の方法

①回腸導管造設術

小腸の一部を切除して尿を導く回腸導管をつくり、尿の出口(ストーマ)を腹部の右側の皮膚に出す方法です。ストーマから断続的に尿が出るため、尿をためるための「集尿袋」をつけることが必要です。

回腸導管造設術

②自排尿型新膀胱造設術

小腸や大腸を使って尿を貯めるための新膀胱を作り、左右の尿管と尿道につなぐ方法です。手術前と同じように尿道から尿を出すことができますが、尿意は感じないので、定期的に腹圧をかけて尿を出す必要があります。尿道にがんがある場合や、尿道に再発する危険性が高い場合には選択できません。

自排尿型新膀胱造設術

③尿管皮膚瘻造設術

尿管を切断して直接皮膚に尿道を縫い付け、尿の出口(ストーマ)をつくる方法です。右の尿管を片側にまとめて1つのストーマにつなぐ「一側性」と、左右それぞれにストーマをつくる「両側性」とがあります。ストーマから断続的に尿が出るため、尿をためるための「集尿袋」をつけることが必要です。

自排尿型新膀胱造設術

(ストーマ造設後の日常生活の注意点についてはこちらをご参照ください)

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん」
病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版, p277, メディックメディア, 2019

監修:
東京医科歯科大学大学院 腎泌尿器外科学 教授
藤井 靖久 先生