9薬物療法について

薬物療法とは、どのような治療法ですか?

薬剤を使って、がん細胞の増殖を抑えたり消滅させることを目的とした治療法です。薬を膀胱や尿管に直接注入する「注入療法」と、点滴で投与する「全身療法」があります。

注入療法

尿道からカテーテル(管)を挿入して、膀胱や尿管内に薬を直接注入し、がんの再発や浸潤がんへの進展を抑える治療です。多くの場合、内視鏡による切除治療と併用して行われます。

使われる薬剤 ・抗がん剤 ・BCG

全身療法

●補助的薬物療法(術前補助療法/術後補助療法)

筋層浸潤性がんの患者さんを対象に、手術の前後に補助的に行われる全身的な治療です。手術の前に行う「術前補助療法」では、がんを小さくして手術の治療効果を高める狙いがあります。手術のあとに行う「術後補助療法」では、術後の再発や転移を抑えることを目的に行われます。

使われる薬剤 ・抗がん剤 ・免疫チェックポイント阻害薬(術後補助療法のみ)

●治療的薬物療法

全身に広がったがんに対して治療的に行われる薬物療法です。がんの進行を抑えたり、症状をコントロールすることを目的に行われます。

使われる薬剤 ・抗がん剤 ・免疫チェックポイント阻害薬 ・抗体-薬物複合体製剤

患者

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん/腎盂・尿管がん」
もっと知ってほしい膀胱がんのこと, p12-15, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2022
日本臨床腫瘍学会編:新臨床腫瘍学 改訂第6版, p470-477, 南江堂, 2021
Bajorin DF, et al. N Engl J Med. 2021; 384(22): 2102-2114
Powles T, et al. N Engl J Med. 2021; 384(12): 1125-1135

BCG(結核予防のワクチン製剤)

弱毒化したウシ型結核菌を使った結核予防のワクチン製剤です。詳しい作用は不明ですが、免疫システムを刺激する働きがあると考えられており、特に悪性度が高い筋層非浸潤性の尿路上皮がんに対する治療薬として用いられることがあります。

BCG(結核予防のワクチン製剤)

化学療法(細胞障害性抗がん剤)

従来の抗がん剤を使った治療を化学療法といいます。
細胞障害性抗がん剤は、主に細胞が分裂する増殖過程に作用することで、がん細胞の増殖を抑える働きがあります。

化学療法(細胞障害性抗がん剤)

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん/腎盂・尿管がん/薬物療法 もっと詳しく」
後藤百万 他 編:泌尿器科薬剤の考え方、使い方, p108-119, 中外医学社, 2020
日本臨床腫瘍学会編:新臨床腫瘍学 改訂第6版, p470-477, 南江堂, 2021
もっと知ってほしい膀胱がんのこと, p12-15, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2022

がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)

がん免疫療法は、もともと体内に備わっている患者さん自身の「免疫」の力を利用して、がん細胞への攻撃力を高める治療法です。
尿路上皮がんに対しては、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる治療薬が使われます。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキ役の部分(免疫チェックポイント)に結合する働きがある抗体薬で、点滴で投与されます。

がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)

抗体-薬物複合体製剤

特定の分子を標的とする抗体と薬物が、リンカーという部分でつながった新しいタイプの薬剤です。抗体が、がん細胞の表面にある特定の分子と結合すると、薬物ががん細胞の内部に入り込み、増殖できないように働きます。

抗体-薬物複合体製剤

国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん/腎盂・尿管がん/薬物療法 もっと詳しく」
やさしく学べるがん免疫療法のしくみ, p26-29, 羊土社, 2016
泌尿器外科, 34(11), p1238-1244, 医学図書出版, 2021
Halford. Z, et al. Annals of Pharmacotherapy, Vol.55(6): 772-782. 2021
Bajorin DF, et al. N Engl J Med. 2021; 384(22): 2102-2114
Powles T, et al. N Engl J Med. 2021; 384(12): 1125-1135

監修:東京医科歯科大学病院 病院長
東京医科歯科大学大学院 腎泌尿器外科学
教授 藤井 靖久 先生

(2024年7月作成)