10薬物療法について

HER2、CPS、CLDN18、MSI検査とは何のための検査ですか?

胃がんが持つ特徴によって、特定の薬剤に対する治療反応性が異なることが明らかになってきました。がん表面に発現しているタンパク質や、がんが持つ特有の遺伝子変化など、がんが持つ特徴である「バイオマーカー」も参考にし、薬物療法を選択しています。

現在、胃がんに対する薬物療法のバイオマーカーとして「HER2」、「CPS」、「CLDN18.2」、「MSI」があり、これらのバイオマーカーを参考にしながら治療を決めていきます。

HER2(ハーツー)

がん細胞の表面に発現しているタンパクであり、胃がん患者さんのおよそ15-20%にそのタンパクの過剰発現が認められます。発現が強い場合に「HER2陽性」と定義され、HER2陽性の胃がんに対しては、HER2をターゲットとした分子標的薬を標準的な薬物療法として使用できます。
発現が弱い場合は「HER2陰性」と定義され、異なる薬剤を用いた薬物療法が検討されます。

CPS(シーピーエス)

がん細胞の表面とその周囲に発現しているPD-L1というタンパクの発現をスコア(数値)で示したものです。
胃がんの患者さんの約80%に、CPS1以上の発現が認められたとの報告があります。近年ではCPSが、薬剤選択の指標の1つとして用いられることがあります。

CLDN18(クローディンエイティーン)

がん細胞の表面に発現しているCLDN18.2というタンパクであり、胃がん患者さんのおよそ30-40%にそのタンパクの過剰発現が認められます。
発現が確認された場合に「CLDN18.2陽性」と定義され、HER2陰性かつCLDN18.2 陽性の胃がんに対しては、CLDN18.2をターゲットとした分子標的薬を薬物療法として使用できます。

*胃がん組織においてCLDN18陽性が確認された場合は、CLDN18.2陽性と判断されます。

MSI(エムエスアイ)

がんが持つ特徴の一つで、マイクロサテライト不安定性の略です。胃がんではおよそ5%に、このマイクロサテライト不安定性が高い「MSI-Highエムエスアイ ハイ」の患者さんが存在しています。

日本胃癌学会編:患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版, p76-78, 金原出版, 2023
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 胃がん 改訂3版, p124, 医薬ジャーナル社, 2018
日本臨床腫瘍学会編:がん免疫療法ガイドライン 第3版, p239-242, 金原出版, 2023
Abe H, et al. Gastric Cancer. 2024. doi: 10.1007/s10120-024-015 71-w.
日本胃癌学会編:「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」第1.1版(2024年8月)p.2, 5, 10-11, 2024
Matsuishi A, et al. Sci Rep. 2024; 14: 17916.

胃がんに対する薬物療法のバイオマーカーの種類と特徴

バイオマーカーの種類内容と特徴
HER2(ハーツー)
  • がん細胞の表面に発現しているタンパクで、発現が強い場合は「HER2陽性」と定義されています。
  • 胃がん患者さんの15-20%にHER2タンパクの過剰発現が認められます。
CPS(シーピーエス)
  • がん細胞の表面とその周囲に発現している「PD–L1」ピーディーエルワンというタンパクの発現をスコア(数値)で示したものです。
  • 近年では、CPSが薬剤選択の指標の1つとして用いられることがあります。
CLDN18(クローディンエイティーン)
  • がん細胞の表面に発現している「CLDN18.2」というタンパクで、発現度が強い場合は「CLDN18.2陽性」と定義されています。
  • 胃がん患者さんのおよそ30-40%にCLDN18.2の過剰発現が認められます。
MSI (エムエスアイ)
  • がん細胞が持つ特徴の一つで、マイクロサテライト不安定性の略語です。
  • 胃がん患者さんの約5%に、マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-Highエムエスアイ ハイ)患者さんが存在しています。
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 胃がん 改訂3版, p124, 医薬ジャーナル社, 2018
日本胃癌学会編:患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版, p76-78, 金原出版, 2023
日本臨床腫瘍学会編:がん免疫療法ガイドライン 第3版, p239-242, 金原出版, 2023
日本胃癌学会編:「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」第1.1版(2024年8月)p.2, 5, 10-11, 2024
Matsuishi A, et al. Sci Rep. 2024; 14: 17916.
監修:
静岡県立静岡がんセンター 副院長
寺島 雅典 先生

(2025年1月作成)