10薬物療法について

薬物療法とは、どのような治療法ですか?

薬剤を使って、がん細胞の増殖を抑えたり、消滅させることを目的とした治療法です。薬が体のすみずみまで行き渡ることで、全身に散らばったがんに対しても作用を示します。胃がんの薬物療法は、手術と組み合わせて行われる「補助化学療法」と、手術による治療が困難な状況において行われる治療法があります。

補助化学療法

補助化学療法の目的は、手術単独でも治癒の可能性がある患者さんに対して、目に見えないようながん細胞を薬物療法によって消滅させることです。治療が推奨されるのは、ステージⅡまたはⅢの患者さんになります。

進行再発症例に対してのがん薬物療法

遠隔転移を有する、がんが手術で取れる範囲を超えて広がっている場合に適応となります。治療の目標は、がんの進行に伴う症状の改善や発現を遅らせることと生存期間の延長となります。薬物療法の種類は、「殺細胞性抗がん剤」、「分子標的薬」、「免疫チェックポイント阻害薬」、「抗体薬物複合体」の4種類があります。
薬物療法では、最も効果的と考えられる薬の組み合わせとスケジュールがいくつか決まっています。これを「レジメン」といいます。最初のレジメン(1次治療)の効果がみられなかった場合は、別のレジメンを使った2次治療、3次治療、4次治療が行われることもあります。
どのような薬物療法を行うか、実際の治療戦略については、遺伝子変異の有無や薬剤の副作用の程度、患者さんの全身状態などを考慮して決められます。

点滴をしている患者さん

※手術前に行われる「術前補助化学療法」と、手術後に行われる「術後補助化学療法」があります。

国立がん研究センター がん情報サービス 「胃がん・治療」
もっと知ってほしい胃がんのこと, p14-15,18-19, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2016
日本胃癌学会編:患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版, p36-37,75, 金原出版, 2023

殺細胞性抗がん剤

殺細胞性抗がん剤は、主に細胞が分裂する増殖過程に作用して、DNAの合成を妨げたり、分裂機構を障害することで、がん細胞の増殖を抑える働きがあります。補助化学療法や遠隔転移を有するもしくは手術が難しい胃がん患者さんに対して、単独または複数の種類の殺細胞性抗がん剤を組み合わせて用います。

殺細胞性抗がん剤

分子標的薬

分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定の遺伝子の産物(タンパク質)に作用し、がん細胞が増えるのを抑える働きがあります。
遠隔転移を有するもしくは手術が難しい胃がん患者さんでは、最初の治療(一次化学療法)はHER2ハーツータンパク質を腫瘍が持っているかどうかで治療法が選択されます。HER2タンパク質が多く発現している場合、HER2を標的とした分子標的薬が用いられます。
また、がん細胞に栄養を供給する血管の細胞に発現するVEGFR-2タンパク質を標的とした分子標的薬も用いられます。
また最近では、抗HER2抗体に殺細胞性抗がん剤を組み合わせた抗体薬物複合体という新しい薬剤も登場しています。

分子標的薬
がん化学療法ケアガイド 第3版, p25-39, 中山書店, 2020
日本臨床腫瘍学会編: 新臨床腫瘍学 改訂第6版, 南江堂, 2021
日本胃癌学会編:患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版, p36,73-76, 金原出版, 2023

免疫チェックポイント阻害薬

私たちの体は、免疫機能が正常に働いている状態では、T細胞などの免疫細胞が、がん細胞を「自分でないもの」と判断し攻撃します。しかし、がん細胞は、免疫機能から逃れようと、免疫細胞にブレーキをかけ、攻撃から逃れていることがわかっています。
薬剤を用いて、がん細胞による免疫細胞へのブレーキを解除し、患者さん自身にもともとある免疫の力を使って、がん細胞への攻撃力を高める治療法を「がん免疫療法」といいます。
遠隔転移などにより手術が難しい、または再発が認められた胃がんの患者さんでは、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる薬剤が用いられています。
治療は、単独または複数の種類の殺細胞性抗がん剤と併用して行われます。

免疫チェックポイント阻害薬
日本臨床腫瘍学会編: 新臨床腫瘍学 改訂第6版, 南江堂, 2021
日本臨床腫瘍学会編: がん免疫療法ガイドライン 第3版, p10, 金原出版, 2023
国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法」
日本胃癌学会編:患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版, p17,75-76, 金原出版, 2023
監修:
静岡県立静岡がんセンター 副院長
寺島 雅典 先生

(2023年8月作成)