LOさん 60代 膵臓がんステージⅣ

がんサバイバーとは、がんが治癒した人だけではなく、がんの診断を受けた時から死を迎えるまでの全ての段階にある「がんの経験者」を指します。

個人の体験談であり、個人情報保護の観点から一部の情報を改変しています。
この記事の内容を参考に運動や食事を工夫してくだされば幸いです。ただし、ご自身の治療内容や生活上の注意点については、必ず主治医にご相談ください。

LOさん 60代

LOさん 60代 膵臓がんステージⅣ(2022年現在)
妻と次女の3人暮らし、長女は結婚して遠方にいる

  • 2018年 膵臓がんステージⅣと診断され、治療に専念するために退職。1年間の術前化学療法後に手術。術後、食欲がなくなる
  • 2020年 肝転移が見つかり、化学療法を開始。その後、抗がん剤を変更しながら治療中。体重は20kg減り、幽門狭窄きょうさく症(胃の出口が狭くなる症状)と診断される。バルーン拡張術後、体重は徐々に回復

1日のスケジュール表

抗がん剤で治療中(化学療法中)

07:30
起床
08:00
朝食
08:30
TV(ニュース)視聴
09:30
PC(パソコン)でメール確認
12:30
昼食
13:30
昼寝/散歩
運動として30分を目安に散歩をしています。
散歩
15:00
間食
腸に負担をかけないよう1回の食事量を減らして、間食しています。1日3回間食することもあります。
ケーキ 焼き芋
15:30
散歩
16:30
TV視聴、
PCでメール確認
19:00
夕食
20:00
入浴
20:30
家族団らん
22:00
間食
22:30
就寝

食べられない時は、主治医に伝えることが大切です

LOさん術後、食欲はあっても胃がすぐに一杯になるようになりました。なかなか治らず、主治医からは「術後によくある消化吸収機能の低下でしょう。回復に1年くらいかかる人もいます」と言われたので、自分もそうかなと思っていました。しかし、食べられないから動く気にならない、動かないから食欲がわかないという悪循環も加わり、術後1年あたりでほとんど食べることができなくなりました。

診断前60kgあった体重は40kg(-20kg)にまで減少し、さすがに「生命がもたない」と危機感を覚えるようになりました。内視鏡検査を受けた結果、胃の吻合ふんごう部(出口)が狭くなっていることがわかったので、吻合部を拡げるバルーン拡張術を受けたところ、少しずつ食べられるようになり、体重は徐々に回復してきました。正直、「もう少し早く検査してくれていれば……」と思いましたが、主治医が「食べられない原因は手術の影響や抗がん剤の副作用、がん悪液質など様々あって、なかなか診断しづらい」と言っていたので、つらい症状がある時は、我慢せず、何度でも医師に伝えることが大切だと思いました。

腸に負担がかからないよう食事回数を増やしています

LOさん一度にたくさん食べると腸に負担がかかって下痢になることがあるので、3食プラス間食を摂るようにしています。間食ではさつまいも、妻の好物のケーキなどを食べています。また、現在化学療法中で、2週間間隔で抗がん剤を投与するスケジュールになっています。投与直後から1週間は抗がん剤の副作用である味覚障害で食欲不振になり体重が1〜2kg減るので、残りの1週間でしっかり食べて体重を戻し、次の投薬に備えるようにしています。

写真は食欲不振の時の朝食で、妻が栄養バランスを考えて作ってくれます。免疫力を高めるためにヨーグルトも食べたり、食べやすいようにご飯をお茶漬けにしたりすることもあります。昼食や夕食には、このメニューに魚か肉の一品が加わります。食べられる時はご飯やおかずの量が増えますし、家族と焼き肉を食べに行くこともあります。

あまり食べられない時の朝食

◆あまり食べられない時の朝食

  • パン
  • みかん
  • 野菜とお肉の炒め物
  • きゅうり入りちくわ
  • コーヒー
あまり食べられない時の朝食

◆あまり食べられない時の朝食

  • 炊き込みご飯
  • アスパラガスの炒め物
  • 肉の野菜炒め
  • ゆで卵
  • コーヒー

味覚障害がある短い期間は、我慢して食べます

LOさん病院の栄養士さんから「抗がん剤の副作用である味覚障害には個人差がありますが、一般的にはうま味や塩味が感じにくくなり、甘味を強く感じることが多いようです」と言われたので、普段から食べ慣れたものをベースに色々試したところ、私の場合は塩味や辛味がきつく感じるようで、好物の鮭フレークは苦手になっていました。しかし、なぜか梅干しの塩味は酸っぱく感じて食欲がわいたので不思議だなあと思います。そうやって試行錯誤しましたが、食事量はやはり減ります。幸いなことに味覚障害が強いのは抗がん剤投与後3日間くらいとわかるようになったので、この間は我慢して食べるようにしています。なぜなら食べることは生きる原点で、食べると身体が動いて体力がつき、次の治療につながることを実感しているからです。

体力をつけるには、食事と運動の両方が必要だと実感しました

LOさん食べることも、身体を動かすこともままならなかった時期は、太ももの周囲が診断前の3分の1程度に痩せ細り、トイレに行くのも億劫おっくうになりました。しかし、食べて歩き出すとすぐに太ももが少し太くなったような気がしました。「食べることで体重や筋肉も増えて、歩きやすくなる、さらに、歩くことでお腹が空いて食べる量が増える」というよいサイクルを実感しました。こういった経験があるので、味覚障害で食欲がなくても少しでも食べられるものを食べて、できるだけ歩くようにしています。

診断前から散歩が好きでよく歩いていました。体調がよければ6000歩〜1万歩(1時間から2時間弱)くらい歩きますが、体調が悪かったら歩きませんし、雨が降ったり風が強かったりする日も転んだりする危険があるので歩きません。その日の体調に合わせて無理をしない範囲で歩くようにしていて、春先は桜の名所を訪ねたり、家族と行くおいしいお店を探したりと、散歩を楽しんでいます。病院の理学療法士さんからはストレッチや軽めの筋力トレーニングを教えてもらったのですが、家の中で1人で行うのは、なかなか継続できなかったのです。やはり外の空気を吸えて、景色を楽しめる散歩が私には合っていますね。

〈がんサバイバーのみなさまへ〉自分の希望を明確にすると、実現のために体調を整えようとします

LOさん肉体的、精神的に一番しんどかった時に、ネットで色々検索をして「○○温泉旅館に行くぞ」とか、「□□県の美術館に行こう」とか、とにかくやりたいことを見つけて計画を立てました。するとそれを叶えるために頑張って食べようと思いますし、散歩の距離もおのずと長くなります。結果、振り返れば色々なことを実現してきましたし、一時期と比べて主治医が驚くほどの回復ぶりです。

まずは、自分が何をしたいのか、どんな希望を持っているのかを明確にすることだと思います。そして、短期的、中期的、長期的に目標を持てば、おのずと食べて運動をするようになり、体力がついて色々なことができるのではないでしょうか。

監修医から一言

管理栄養士の先生より

写真を見ると、たんぱく質や脂質(肉や卵)、炭水化物(パンやご飯)、ビタミン、ミネラル(野菜やくだもの)など、生命活動を営むために必要な5大栄養素を摂ることを意識されておられるので、ぜひこのまま続けてください。また、消化器に負担をかけないために食べる回数を増やしてエネルギー(カロリー)を摂っているところもよいですね。がん患者さんは周囲から「肉はダメ、糖質もダメ」と言われることもあるそうですが、食事の基本は、栄養をバランスよく摂り、楽しむことです。間食でLOさんがケーキなどの嗜好品しこうひんを楽しむことは全く問題ありませんし、よいことだと思います(奥様の肥満などにはお気を付けください)。

なお、抗がん剤の副作用で口内炎になることもよくあります。口内炎は治りにくいので、歯磨きやうがいをして、日ごろから清潔かつ保湿することで予防に努めましょう。

理学療法士の先生より

散歩は自分のペースで続けられる運動の一つです。LOさんのように季節を楽しんだり、目的地を設定したりして歩くのは意欲的になるのでとてもよいですね。また、太ももの太さが戻ってきたということは、背筋を伸ばして、太ももを上げたよい姿勢で歩けている証拠だと思います。引き続き、猫背になっていないか、足を地面にこするように歩いていないかを意識しながら、散歩を継続してください。あとはストレッチや筋力トレーニングを1〜2つ程度取り入れることができるとよいと思います。朝起きたら奥さんと一緒にストレッチするなど、家族で一緒に運動する習慣が身につくと、継続して実施できるようになるかもしれません。

  • 監修:
    愛媛大学医学部附属病院 栄養部
    部長 利光 久美子 先生
    名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻
    予防・リハビリテーション科学 創生理学療法学講座
    立松 典篤 先生