めまい(貧血)への対策
こんな症状
- 目がまわる、目がくらむなどの感覚
- 天井や周囲の景色あるいは自分がぐるぐる回っている、片側にひっぱられるように感じる [回転性めまい]
- 身体がふわふわ浮く、ふらふらする、ゆらゆら揺れるように感じる [非回転性めまい(浮動性めまい)]

主な原因
がんによるもの
- 主に脳腫瘍(小脳腫瘍、脳幹腫瘍)[回転性めまい]、聴神経腫瘍[非回転性めまい]、出血による鉄欠乏性貧血 (詳しくは下記【コラム】がん性の貧血とめまいの関係 参照)、多発性骨髄腫・骨髄性白血病など血液がんに伴う貧血
がん治療によるもの
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放射線宿酔 : 放射線照射を受けてから数時間後に起きる副作用。頭重、頭痛、倦怠感、上腹部停滞感、おう吐など二日酔いに似た症状で、めまいも含まれる。ほとんどの場合1~2週間で消失する1)。 - 内耳への放射線照射
- 化学療法による薬の副作用としての貧血、内耳に関連する末梢神経障害
- 症状の緩和のために使われる薬(オピオイド、中枢神経系薬剤等)の副作用
がん以外によるもの
[回転性めまい]
多くは耳が原因のめまいであるが、脳血管障害による症状でも起きる。
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良性発作性頭位 めまい症: 内耳前庭内にある「耳石 」がはずれて三半規管の中に入り込み、頭の動きにつれて動きまわるため、数秒~数十秒間のぐるぐる回るめまいが生じる。耳石が三半規管から出てしまえばおさまる。めまいの50~60%と最も高い割合を占めるとされる。2) -
メニエール病: ストレス、過労、睡眠不足が主な原因となって、内耳の三半規管内のリンパ液が多くなり、むくむ病気で、むくみによる圧迫で内耳の機能が障害され、めまい、耳鳴り、難聴、吐き気・おう吐などの症状が出る。めまいは数時間から数日でおさまることが多いが、月に数回、年に数回と繰り返し発現する2)。
- 脳血管障害:
椎骨脳底動脈循環不全 、脳出血、脳梗塞など - めまいを伴う突発性難聴
- 自律神経失調症・血管迷走神経反射(痛み、長時間立っていること、排便・排尿後、ストレスなどにより、自律神経系の突然の失調が起こることで血圧や心拍数が下がり、脳に行く血液循環量を確保できずに、失神やめまいなどの症状が起きる)
[非回転性めまい]
ぐらぐらする、ふわふわ揺れるめまいは脳神経の病気の場合もあるが、耳からくるめまいに比べて多くはなく、めまい全体の10%程度とされる2)。ぐらっと立ちくらみのようなめまい(眼前暗黒感、失神発作を伴うめまい)は、血圧の変動と関係することが考えられる。
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起立性低血圧: 不整脈、パーキンソン病による血管収縮調整力の低下、糖尿病・腎臓病などによる末梢神経障害、薬(降圧薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、アミノグリコシド系抗菌薬、抗アレルギー薬など)の副作用など
- 一時的・急激な血圧上昇
- 脱水
- 精神的・心理的ストレス
がんそのものが原因で起きるめまいは、「平衡感覚(姿勢や身体のバランスを保つための知覚)」に関係する脳幹や小脳に発生した脳腫瘍が原因の「回転性めまい」と、内耳から脳に情報を伝える「前庭神経」の周辺に生じた聴神経腫瘍や、血液をつくる骨髄にがん細胞が侵入し、酸素を運ぶ赤血球の産生量が減少するために生じた貧血に伴う「非回転性めまい(浮動性めまい)」に大別されます。
脳腫瘍など中枢神経系に生じたがんに伴うめまいでは、めまいと併せて、吐き気・おう吐、激しい頭痛、麻痺やしびれ、手の震えのほか、ろれつが回らない、物が二重に見えるなど、脳出血や脳梗塞でみられるような症状が起きることがあります。このような中枢神経症状を伴うめまいの場合は、すぐに受診してください。
一方、貧血に伴うめまいでは、疲労感や息切れ、立ちくらみなど一過性の症状だけでおさまることが多いため、「一時的なものだから」と放置してしまいがちです。化学療法や放射線療法の影響で、貧血と血小板減少が重なると、転倒などによるけがが致命的な出血につながる恐れもあるので、主治医から説明を受け、十分注意をしましょう。
- 参考
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- 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK,照林社,2018年
- 江口正信 編著:新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術,サイオ出版,2015年
- 国立がん研究センター がん情報サービス 「貧血」:
https://ganjoho.jp/public/support/condition/anemia.html(閲覧日:2020年10月15日) - めまいの話:http://www.ogata-shunsaku.com/~kafun/memai/memai_3.html(閲覧日:2020年10月15日)
- 引用
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- 1)田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK,照林社,2018年
- 2)めまいの話:http://www.ogata-shunsaku.com/~kafun/memai/memai_3.html(閲覧日:2020年10月15日)
【コラム】がん性の貧血とめまいの関係
貧血は、血液中の赤血球の中にあって、肺から取り入れた酸素を体のすみずみまで運ぶ役割をになうヘモグロビン濃度が低くなった状態を指します。がんからの出血や造血機能の低下、化学療法・放射線療法による骨髄抑制(骨髄で血液を造るはたらきが低下)や溶血(ようけつ:赤血球が壊れる)、あるいは赤血球やヘモグロビンを造るために必要な鉄やビタミンB12の欠乏などの栄養障害が原因で生じ、めまいや立ちくらみ、動悸、息切れ、疲れやすい、だるい、意識が遠くなるなどの症状が現れます。
貧血と診断された場合は、がんの治療と並行して原因および程度に応じた治療が行われます。
めまいがあるときの工夫
【めまい発作時の対応】
- めまい発作中は、安静にし、落ち着いて症状がおさまるのを待ちます。できれば、明るすぎず、静かな場所で楽な姿勢で横になることが望ましいです。主治医から、めまいを改善するお薬を処方されている場合は服用しましょう。
- めまいやふらつきを感じたときは、転倒しないようにすぐにその場にしゃがみ、落ち着くまで様子をみてください。必要と感じたら、ためらわず周りに助けを求めましょう。
- 症状がおさまった後も急に立ち上がったりはせず、何かにつかまることができるように壁側を歩く、車道と反対側の歩道の奥側を歩くことを意識して、ゆっくりと歩き出しましょう。
【自分の症状を知る】
- めまいについて、①どんな感覚だったのか(ふらふらして足下がおぼつかない、目の前が真っ暗になるなど)、②いつ、何をしているときに起きたか、③めまい発作が続いた時間、④めまいと同時に起きたほかの症状 などを記録して医師に報告するようにしましょう。
- 症状や感覚と併せて、血液検査のヘモグロビンの数値を知っておくと、何かしら関連が実感できるかもしれません。
【日常生活】
- めまいやふらつきのために日常生活に支障があるときは、家族や友人に協力を求め、手伝ってもらうことも大切です。急な発作にそなえて、ご家族や身近な人にも対処法を話しておきましょう。
- 自分に合ったリラックス法をみつけ、ストレスをためこまないように心がけましょう。必要なときは、精神腫瘍科などに相談することもできます。
- 手足のストレッチやマッサージは、緊張感をほぐし、だるさを和らげるために効果があるとされます。
- ウォーキングや水泳などの有酸素運動はめまいの予防になるとされるので、医師と相談して可能であれば、症状が改善したときに実行してみるとよいでしょう。
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ニコチンは血管を収縮させ、血液の流れを悪くするので、禁煙が大切です。
貧血があるときの食事の工夫
ヘモグロビンの材料になるタンパク質や鉄分を豊富に含む食材を選び、バランス良く食べましょう
- タンパク質が豊富な食材:魚、肉、乳製品、ナッツ、豆類など
- 鉄分が豊富な食材:プルーン、レーズン、豆類など
- その他とりたい栄養素:鉄の吸収を助けるビタミンCや造血を助けるビタミンB12、葉酸



「国立がん研究センター東病院 柏の葉料理教室から生まれた がん症状別レシピ検索『CHEER!(チアー)』貧血」では、貧血によいレシピが紹介されており、参考になります。
(https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/CHEER/li/010/060/index.html(閲覧日:2020年10月13日)
- 参考
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- 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK,照林社,2018年
- 国立がん研究センター がん情報サービス 「貧血」:
https://ganjoho.jp/public/support/condition/anemia.html(閲覧日:2020年10月15日)
- 監修:
- 社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長・部長 森田 達也 先生