がんライフサポートのために、生活様式を身につけましょう

健康的な生活習慣を選択することで、多くのがんでかかるリスクや再発率を下げることがわかっています。ここでは科学的根拠を基に、どのようなことに気を付けたらよいのかについてご紹介します。注意点としては、ここで述べる健康的な生活を送れば、「必ずがんにかからない・再発しないという訳ではない」ということです。しかし、健康的な生活を維持すれば、がんを予防するだけでなく、あなたの体調が整い、活気あふれた人生を送る一助になると思いますので、ぜひ試してみてください。

<語句説明>

*科学的根拠: 実験や調査などの研究結果から導かれた証拠。エビデンスともいう。

身体の負担軽減のために健康的な生活を維持しましょう

早寝早起きやバランスのよい食事、規則正しい食生活は、体調を整えやすく、がんの発生や再発の予防につながります。また、治療へのよい影響が期待できます。注意点としては、がんの治療中や治療直後は、どうしても細菌やウイルスに感染しやすくなります。したがって、規則正しい食生活を送っていただくことに加えて、こまめな手洗いなど、感染症の予防に努めることも大切です。

健康的な生活様式

  • たばこをやめ、受動喫煙も避ける
  • お酒をやめる
  • 適度な運動をする
  • 健康的な食事の習慣を身につける
  • 感染症の予防を心がける
【コラム】がんの治療中はリラックスを心がけましょう1)

がんと診断されてから、将来への不安や治療により、心身ともに疲れやすくなったりします。疲れると身体がこわばって、どうしても呼吸が浅くなるため、疲れたな、しんどいなと感じたときには身体を“ぐーっ”と、思い切り伸ばして深呼吸をしてみてはいかがでしょうか。リラックスできて気分もすっきりします。

伸び

参考:

たばこをやめ、受動喫煙も避ける

たばこの煙の中には、発がん性物質が含まれています。発がん性物質は喫煙により速やかに肺に入り、血液にのって全身の臓器に運ばれ、遺伝子(DNA)を傷つけるなどしてがんを発症させます1)。このため、たばこの煙は、肺はいうまでもなく、口やのど、鼻、食道、胃、肝臓、膵臓、ぼうこう、子宮頸部などでもがんを引き起こすことが知られています1)。たばこをやめるには相当の決意が必要ですが、計画的に行うと順調に進みやすくなります。禁煙外来を受診するのもよいでしょう。
また、周囲にいる喫煙者のたばこの煙(受動喫煙)は、喫煙者本人が吸い込んだ煙よりも発がん性が高いとの報告もあるので2)、禁煙を心がけると同時に受動喫煙も避けるようにしましょう。

禁煙のための計画(例)3)

  • ステップ1 やめる日をカレンダーに記入する
    やめる日を次の週の月曜か火曜などに設定すれば、準備(ステップ6)に十分な時間ができます。
    また、やめる日までに、家族や友人などに禁煙の決意を知らせておくと、決意がゆらぎにくいでしょう。
  • ステップ2 節約額を計算する
    1箱500円のたばこを1日1箱吸う方なら、禁煙により1年間で18万2千5百円の節約になります。
計画
  • ステップ3 禁煙する理由を明確にする
    家族やペットの健康、お金の節約など、禁煙する自分なりの理由を明確にしておくと、やる気を持続させるのに役立ちます。
  • ステップ4 たばこを吸いたくなるきっかけを知る
    ストレスや不安、休憩、勉強、飲酒など、あなたが吸いたくなるきっかけを知ることで、禁煙を続けるための戦略を立てることができます。
  • ステップ5 あなたの欲求への対処法を考える
    たばこを吸いたくなったときに、気をそらせる方法を探します。運動する、場所を移動する、水を飲む、深呼吸をする、禁煙者と話すなど、自分に合ったものが見つかるまで、様々な対処法を試していきましょう。
  • ステップ6 準備する
    手持ちのものだけでなく、家や車の中に置いてあるたばこ、ライター(マッチ)、灰皿を捨てましょう。
気をそらす
【コラム】禁煙により、体重は増加しますか?

日本で11人のたばこをやめた人を調査したところ、18ヵ月の禁煙で平均3.5kg増加したとの報告があり4)、禁煙で体重が増加する可能性があります。禁煙による体重増加を防ぐには、運動がよいといわれています。運動は、たばこによる禁断症状を緩和し5)、長期的には体重増加を防ぐとの報告があります6)

  • 1) 厚生労働省. 喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書, 2016
  • 2) U.S. Department of Health and Human Services.
    The Health Consequences of Involuntary Exposure to Tobacco Smoke; A Report of the Surgeon General, 2006.
  • 3) CDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病予防管理センター).
    Quitting Starts Now. Make Your Plan.(2022年2月17日閲覧、https://smokefree.gov/build-your-quit-plan
  • 4) Kadowaki, T, et al. J Occup Health, 2006; 48(5): 402-406.
  • 5) Taylor AH, et al. Addiction, 2007; 102(4): 534-543.
  • 6) Farley AC, et al. Cochrane Database Syst Rev, 18(1): 2012. doi: 10.1002/14651858.CD006219.pub3.

お酒をやめる

飲酒は、頭頸部(首から上)、食道、肝臓、大腸、乳房でがんの原因になるとされています1)
お酒に含まれているエタノールは、体内で分解されてアセトアルデヒドという物質になります。このアセトアルデヒドが遺伝子(DNA)に傷を付けることで遺伝子に変異が生じ、がんが発生すると考えられています。

がんになるリスクが最も低いアルコール量は、“0(ゼロ)”です

お酒は少量なら健康によい、という話を聞いたこともあると思います。しかし、少量とはどのぐらいなのでしょうか?世界 195ヵ国で実施された 592 の研究を解析したところ、がんを含む疾患のリスクは飲酒量が少ないほど減少し、最も減少する飲酒量は0(ゼロ)でした2)。そうはいっても飲みたい時もあるでしょう。そんな時はできる限り少量を心がけましょう。

お酒を断る
【コラム】赤ワインもがんの予防にはならない?3)

赤ワインに含まれているポリフェノール化合物が、がんを含む様々な疾患を防ぐのではないかと考えられていますが、現在のところ、赤ワインにがんへの予防効果があるとの報告はありません。また、ブドウ種子に含まれるポリフェノールの主成分であるプロアントシアニジンに特に強い抗酸化作用があるとされ、がんに対する効果も期待されていますが、現段階では少人数での研究報告しかなく4)、がんに効果があるとまだ明言できない状況です。

  • 1) 厚生労働省生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」 アルコールと癌(がん)
    (2022年2月17日閲覧、https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-008.html
  • 2) GBD 2016 Alcohol Collaborators. Lancet. 2018; 392(10152):1015-1035.
  • 3) 津川友介ほか. 世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療; 2020, ダイヤモンド社
  • 4) Mao JT et al. Cancer Prev Res (Phila). 2019; 12(8): 557–566.

参考:

  • CDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病予防管理センター).
    Alcohol and Cancer(2022 年2月17日閲覧、https://www.cdc.gov/cancer/alcohol/

適度な運動をする

身体をよく動かす人ほどがんになる可能性が低く、特に男性では結腸がん、肝がん、膵がん、女性では胃がんではっきりと低下することがわかっています1)。そのほか、閉経後の女性が、定期的に運動をすると乳がんのリスクが低くなるのはほぼ確実とされています2)
さらに、運動の効果は、がんの予防だけではありません。がんの治療中はどうしても身体を動かすのが億劫になります。しかし、この時期に座りっぱなしや寝たきりの生活を送ってしまうとなおさら筋力や体力が落ちてしまい、少し動いただけで疲れやすくなり、さらに動きたくなくなるという悪循環に陥りかねません。したがって、運動はがん治療後と後回しにはせず、がん治療中よりできる範囲で行っていくことが重要です。治療中の運動方法と運動量は、個々の患者さんの健康状態や治療内容、どういった生活を送りたいかといった希望などで異なりますので、主治医や理学療法士に相談をして、自分に合った運動メニューをつくってもらいましょう。また、治療後の再発のない安定期(がんサバイバー)にも、心身を健康に保ち、長寿を全うするために運動は必要です。

運動の目安

がん予防のための運動3)

  • 成人…1 週間あたり、中等度の運動* を 150〜300 分間
    または、強度の運動** を 75〜150 分間
    できれば、中等度と強度の運動を組み合わせて、300 分間もしくは 300 分以上
  • 子どもや青少年…毎日、中等度または強度の運動を1時間以上
  • 椅子に座る、寝転ぶ、ソファで動画を見るなど「座りっぱなし」の時間をできる限り少なくする
座りっぱなしはできるだけ少なく
<語句説明4)
  • 中等度の運動とは、運動している間に会話することはできるが、歌を歌うことはできない運動
    (例:速足での歩行、水中でのエアロビクス、サイクリングなど)
  • ** 強度の運動とは、立ち止まって息継ぎしないとほとんど話せない運動
    (例:上り坂のハイキング、縄跳び、ジョギングなど)

がん治療中の運動4)

  • 患者さんの健康状態や治療内容、希望などによって異なるので、主治医や理学療法士に相談をして、運動メニューをつくってもらいましょう。

再発のない安定期の運動4)

  • 1週間あたり150分以上、1週間のうち2日以上は筋力トレーニングを運動に取り入れる。
【コラム】適正体重とは?3)

過体重と肥満は、閉経後の乳房、大腸、子宮、食道、腎臓、すい臓などのがんになるリスクを増加させることがわかっています4)反対に低体重になると、体力が低下したりして、治療を継続できなくなったり、合併症を併発したりするリスクが増加します。
では、自身の適正な体重をみてみましょう。
一般的に、体格指数(BMI)18.5〜25を維持するとよいといわれています。
例)体重(kg)=BMI×{身長(m)×身長(m)}なので、身長160cmの人は47.36kg〜64.00kgを目指すとよいでしょう。
運動は低体重でもストレスを軽減し、筋力を増加させるのに有用です。しかし、過度な運動は体重を増やす妨げとなるので注意しましょう。

  • 1) 国立がん研究センター. 多目的コホート研究の成果 2016年12月, 身体活動について
    (2022年3月7日閲覧、https://epi.ncc.go.jp/files/01_jphc/archives/JPHCpamphlet201612-4.pdf
  • 2) 日本乳癌学会 編. 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版, 金原出版, 1-7.運動によって乳がん発症リスクは低下しますか
    (2022年3月7日閲覧、https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g1/q1/)
  • 3) Rock CL, et al. CA Cancer J Clin. 2020; 70(4): 245-271.
  • 4) 米国対がん協会 著, 村木美紀子 訳, 坪野吉孝 監訳・解説. 「がん」になってからの食事と運動 米国対がん協会の最新ガイドライン: 平成30年, 法研

健康的な食事の習慣を身につける

バランスのよい健康的な食事の習慣は、がんのリスクを低下させるだけでなく、がんの治療前、治療中、治療後の身体の回復を支える大切なものです。食欲がある時は、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な野菜や果物などを意識的に選びましょう。食欲がない時は無理をせずに、食べたいものを食べたい時に口に入れるなど、間食もうまく利用して、適正体重を維持できるエネルギー(カロリー)量を摂るように心がけましょう。その対策については、次のリンクをご参照ください。

「食べたくない」ときの工夫
がん悪液質.jp

健康的な食事のポイント1)

  • 適正な体重維持に役立つ、栄養素が豊富な食品を選ぶ(例えば、良質な脂質やビタミンE、食物繊維を含むナッツ類、必須脂肪酸であるDHA・EPAを含む青魚、良質な脂質とたんぱく質、ビタミン、ミネラルを含む卵など)
  • 様々な野菜を食べる…濃い緑、赤、オレンジ色など色彩が豊かな野菜や、食物繊維を多く含む豆類など
  • 色とりどりの果物を食べる
  • 全粒穀物(精製していない穀物。玄米、全粒小麦など)をできるだけ選ぶ
  • 加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージ)や赤身肉(牛肉、豚肉)は控え目にする
  • 加糖飲料(清涼飲料水、炭酸飲料)は避ける

五大栄養素である炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル(鉄分、亜鉛、カルシウムなど)が、ほかの食品と比較して、少量でも多く摂りやすい食べ物のことです。

様々な食事法が提唱されていますが、今のところがんを治す可能性がある食事法は見つかっていません。詳しく知りたい方は、次のリンクをご参照ください。

がんに効く?! その食事のウソ、ホント
【コラム】「電子レンジでチン」は、発がん性があるの?1)

電子レンジが出すマイクロ波によって、食品から発がん性物質が発生するという噂があったようですが、そのようなことを示す研究結果は現時点ではありません。むしろ、高温で肉を焼く、いぶす、揚げることで発がん性物質は発生するとの報告があります。

電子レンジでチン
  • 1) Rock CL, et al. CA Cancer J Clin. 2020; 70(4): 245-271.

参考:

感染症の予防を心がける

がんの治療中や治療直後はどうしても細菌やウイルスを撃退する力(免疫力)が弱くなるため、風邪を引きやすくなるほか、普段は仲良く共存している“常在菌”が原因の日和見感染(ひよりみかんせん)を生じることもあります。体調を保ち、がん治療を完走するためにもこまめな手洗いなどで感染症予防に努めましょう。

感染症を予防するために

  • こまめに手洗いとうがいをする
  • 人混みを避け、外出時はマスクを着ける
  • 体調が許す限り、毎日お風呂に入り、熱がある、だるいときは、かたく絞ったタオルで身体を拭く
  • 口の中を傷つけないようにやわらかい歯ブラシで歯をみがき、口の中を清潔に保つ
  • 小さな切り傷から感染することがあるので、庭仕事や掃除をする際は手袋をはめる
  • 皮膚が乾燥してひび割れないよう、ローションやクリームで保湿する
  • ひげそりは電気カミソリを使う
  • 排便後の肛門周囲の清潔を心がける
  • 食事は生ものを避け、加熱したものを中心にする
  • がんの治療中に予防接種を受ける際は、主治医に必ず相談する
【コラム】感染症のサインは?

発熱が代表的なサインです。このほか(発熱による)寒け、発汗、喉の痛みや咳など風邪のような症状、陰部のかゆみ、おりものの増加、性器からの不正出血、下痢や腹痛など胃腸炎の症状などがあるときは、ためらわずに主治医と連絡をとるようにしてください。

体調不良

参考:

監修:
  • 京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学
    教授 髙山 浩一 先生
  • 愛媛大学医学部附属病院 栄養部
    部長 利光 久美子 先生
  • 名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻
    予防・リハビリテーション科学 創生理学療法学講座
    立松 典篤 先生