腹部膨満ふくぶぼうまん(感)への対策

こんな症状

  • 「お腹が張って苦しい」「お腹がゴロゴロする」「お腹にガスがたまっている感じ」「便が出そうで出ない感じ」「胃が重苦しい、胃が張っている感じがする」「胃に不快感があり、げっぷが出る」などと表される「腹部膨満感」として自覚される
  • 消化器症状として、吐き気、食欲不振、便秘や下痢を伴う
  • お腹に体液がたまる腹水が原因の場合、腹部の張りによる苦しさに加えて、胸が圧迫されることによる息切れ、呼吸困難といった呼吸器症状、倦怠感、足のむくみ、前かがみや座った姿勢を続けることが苦しい、眠れないなどのその他の身体的症状が現れる

主な原因

がんによるもの

  • 主に消化器がん、卵巣がん、子宮がん、乳がん、肝臓がん、膵臓がんで多い。原発巣としてのほか、肝転移、リンパ節転移および腹膜播種ふくまくはしゅ(がんのできた臓器からがん細胞がこぼれ落ち、お腹の中に種をまいたように散らばって広がること)などによる腹腔内腫瘍の増大・腹水貯留
  • 腹水:お腹の中に体液がたまった状態
  • 卵巣、子宮、肝臓、大腸などの臓器の腫大
  • がん自体による腸閉塞およびイレウス

がん治療によるもの

  • 化学療法による薬の副作用としての便秘、下痢
  • 症状の緩和のために使われる薬(オピオイド、抗うつ薬等)の副作用としての便秘、腸管運動の低下
  • 長期間寝たままの状態でいることによる腸管運動の低下
  • 開腹手術後の麻痺性イレウスまたは腸管癒着ゆちゃく

がん以外によるもの

  • 非がん性腹水(肝硬変、心不全、結核性腹膜炎、細菌性腹膜炎など)
  • 腸閉塞:腸が細く狭くなって詰まる状態
  • イレウス:腸管麻痺により腸の蠕動ぜんどうが低下する状態

お腹周りの増大や張り、苦しさを主症状とする「腹部膨満(感)」は、がんそのものが張りの原因となる場合のほか、腸閉塞、腸の蠕動運動低下により消化物やガスが流れることができずに腸の中にたまることが原因の場合、お腹のなかに体液がたまる「腹水」が原因の場合があります。がん患者さんにおける腹水の原因として最も多いのは①がん性腹膜炎などがんによるもので、次に、②肝硬変・がんの肝転移などの肝臓に関わる病気が多く、①と②が合併する場合もあります。そのほか、③リンパ管の損傷や閉塞などリンパの流れの障害によっても腹水が発生します。また、がん以外の原因として④ネフローゼ症候群などの腎臓に関わる病気、⑤うっ血性心不全などの心臓に関わる病気、⑥細菌性腹膜炎、結核性腹膜炎などの感染性のものに大きく分けられますが、いくつもの原因がからみあっていることも多いので、医師による総合的な診断が必要です。
腹水がたまった患者さん全般について原因を調査したところ、90%が非がん性(肝硬変81%、心不全3%、結核性腹膜炎2%など)で、10%ががん性腹水であったとの報告があります1)。また、がん性の腹水は全がん患者さんの6%に出現し、卵巣がん、子宮体がん、乳がん、大腸がん、胃がん、膵臓がんが合わせて80%以上を占めると報告されています。残りの20%程度は原発巣がわからないがんでした2),3)

腹水の治療には利尿薬の服用により排尿を促す、お腹に針を刺して水を抜く腹水穿刺などの処置がとられます。主治医の説明を受けてください。また、腸の蠕動運動を促す消化管機能改善薬や腸管閉塞による悪心・おう吐の改善、腹部膨満(感)による苦痛の緩和のための薬剤など、症状に応じてお薬が処方される場合もありますから、つらさや苦しさを我慢せず、医師に相談しましょう。

参考
  • 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本緩和医療学会編:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン, 金原出版, 2017年
引用
  • 1)Runyon BA. N Engl J Med 1994;b330(5):337-342.
  • 2)Thomas JR, et al. Principles and Practice of Palliative Care and Supportive Oncology, 3rd ed. LWW. Philadelphia; 2006. p.185-191.
  • 3)Keen J. Jaundice, ascites, and encephalopathy. Oxford Textbook of Palliative Medicine, 5th ed. Oxford University Press, New York; 2015. p.686-670.

【コラム】お腹のスキンケア

腹部膨満があると、お腹の皮膚が引っ張られて伸びることで、表皮の下の真皮や皮下組織が断裂することがあります。また、皮膚が乾燥しやすくなるので、かゆみのため無意識に引っかいてしまい、薄くなった表皮の小さなひっかき傷から細菌が入り、感染症を起こしてしまうこともありますから注意が必要です。うっかりお腹を傷つけないように爪は短く切り、下着や衣服は締め付けが少ないゆったりとしたものにしましょう。皮膚のバリア機能を保つために保湿を心がけてください。入浴後やお腹のマッサージの際に、手のひらの上で保湿剤を温め、おへそを中心に時計回りにやさしく腹部全体に塗り広げていくと効果的です。好みの香りの保湿剤を選ぶと、気分的にもリラックスできるでしょう。皮膚の保湿ケアや腹部マッサージについては、看護師に相談してみましょう。

腹部膨満(感)があるときの工夫

【腹水が原因のときは】

  • できるだけ安楽な体勢が取れるよう、仰向けに寝た状態で、下肢を水平にしたまま上半身を30~45度程度上げた体位がよいとされます。クッションや枕で頭の位置を高く保ち、折りたたんだバスタオルや薄いクッションなどで腰とマットレスとの隙間を埋めると、腰への負担を減らすことができます。
  • お腹や腰への負担をさけるために、ゆったりとした衣類、軽い掛け布団に変えましょう。
  • お腹を温めることで筋肉の緊張が緩和されます。重さが気にならず、熱過ぎない程度の温タオルを適度に広げてビニール袋に入れ、お腹に載せる方法を試してみましょう。ただし、お腹が張る原因によっては、温めない方がよいこともあります。事前に医師または看護師に相談してください。また、温タオルはパジャマの上に置く、タオルでくるむなどして、お腹の肌に直接当てないようにしましょう(低温やけどを起こすことがあるため)。
安楽な体勢
  • 胃や腸の負担を軽くするために一回の食事量を減らし、食べたいときに少量ずつ食べること(分食)がすすめられます。
  • 水の摂り過ぎを避け、氷やシャーベットをなめて水分を補給しましょう。
シャーベット

【腸管閉塞が原因のときは】

  • 食物繊維が豊富な食物(豆類、イモ類)や発酵食品(チーズ、納豆など)、脂肪分が多い食物は避け、消化管に負担がかからない低残渣ていざんさ(食物が消化されたあとに出るカスのようなものが少ないこと)、低刺激の食物を少量ずつ摂りましょう。
  • 一度に飲み込まず、十分噛んで、少しずつ飲み込むよう心がけましょう。
  • 便秘により腹部膨満(感)がひどくならないよう、適度な運動や水分摂取を通して排便をコントロールすることが大切です。下剤や、腸内にガスがたまることを減らすための消化管機能改善薬などの使用については、医師に相談しましょう。
  • 消化管が完全に閉塞していて固形物を摂ることができない場合は、噛んで味わい、その後飲み込まずに吐き出す方法があります。ガム、グミ、するめ、昆布など食品は何でもよいとされます。
参考
  • 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本緩和医療学会編:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン, 金原出版, 2017年
監修:
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長 森田 達也 先生

(2023年5月作成)