あなたと一緒に、がんと向き合う

睡眠障害(不眠、過眠)への対策

こんな症状

不眠

  • なかなか寝付けない(入眠障害)
  • 眠りが浅く、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)
  • 朝早くに目が覚めてしまう(早朝覚醒)
  • ある程度眠ったのに、ぐっすり眠れたという満足感がない(熟眠障害)

過眠

  • 夜に十分な睡眠を取っても昼間に目覚めていられず、うとうとしている、声を掛けると、はっと覚醒する(過眠症、傾眠)
夜ベッドに入るが寝付けず困っている男性のイラスタオ

主な原因

がんによるもの

  • 身体的な症状(痛み、呼吸困難、倦怠感、悪心・おう吐、下痢、頻尿、腹水など)

がん治療によるもの

  • 手術後の疼痛
  • 抗がん剤(化学療法)や放射線療法、支持療法で使われる薬(主にステロイド剤のほか利尿剤など)、そのほかの治療の目的で使用される薬(降圧薬、気管支拡張薬、抗うつ薬など)の副作用

がん以外によるもの

  • 不安、うつ、せん妄など
  • 睡眠を妨げる環境(入院などの環境の変化、光、音など)
  • レストレスレッグス症候群、睡眠時無呼吸症候群など
[しじりょうほう]:がんそのものに伴う症状や治療による副作用に対しての予防策、症状を軽減させるための治療のこと

がんの診断・初回治療を受けた患者さんの30〜50%が不眠を経験しています。また、がん治療開始後2~5年を経たサバイバーにおいても20~40%に不眠がみられたとの報告があります1)
睡眠障害には、寝つきが悪いといった睡眠の維持の障害や眠りの質が悪い熟眠障害を表す「不眠症」のほか、何時間も眠っている、昼間もうとうとしている「過眠」や「傾眠けいみん」という状態があります。
がん患者さんでは、診断・告知により一時的に眠れなくなる経験をする方も多くいらっしゃいます。治療中には、がんによる痛みなどの症状も不眠の原因となります。一方、傾眠は、単なる眠気より強くなると軽い意識障害という意味になり、脳腫瘍や脳転移によって生じる脳のはれ・むくみの発現、頭蓋内圧の高まり、肝腫瘍や肝転移のため肝臓の働きが悪くなり、うまく体内の毒素を分解できない、あるいは骨転移などで血液中のカルシウム濃度が異常に高くなるといった原因で引き起こされる場合があります。

【コラム】①ことばの説明

レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群 という病名もあります。)
以下の4つの主な症状に基づいて診断される病気です。

  • ①足を動かしたいという強い欲求があり、足に不快感が出る。
  • ②安静にしているときや横になっているときに①の欲求が起きる。
  • ③足を動かすことで①の欲求や不快感は改善する。
  • ④日中より夜間に①の欲求や不快感を生じることが多い。

眠れないときの工夫

【生活習慣】

  • 毎日、同じ時刻に起きるクセをつけましょう(決まった時刻に起床することで就寝時刻も定まりやすくなります)。
  • 「○○時間眠らなくては」というこだわりを捨て、どうしても眠れないときは思い切ってベッドから離れましょう。
  • 朝、日光をあびて体内時計をリセットしましょう。逆に夜に強い光を長い時間あびると体内時計が乱れて、朝起きるのがつらくなります。
  • 日中に眠気があるときには、昼寝をし過ぎないよう、午後2~3時頃までに短時間(30分程度)の昼寝でとどめると効果的です。
  • 医師と相談のうえ、軽い運動や散歩を定期的に行いましょう。
朝気持ちよく起き上がる男性のイラスト

【リラックスと眠りのための環境づくり】

  • 自分流のストレス解消法をみつけ、気分転換をはかりましょう。
  • 寝る前にぬるめのお風呂にゆっくり入る、アロマテラピーや好きな音楽を聞くなど、リラックスタイムを設けましょう。半身浴は心臓への負担も少なく、よりよい睡眠が得られるとされます。
  • 眠りやすい環境づくりを心がけましょう(睡眠のための適温は20℃前後で、湿度は40%-70%くらい。寝室の照度を落とし、テレビや携帯端末などの光は避けましょう)。

【嗜好品・食品】

  • 寝る前はカフェイン(コーヒー、チョコレート、緑茶など)やニコチン(たばこ、電子たばこ)などの刺激物を避けてください。
  • 寝酒は、寝つきがよくなるように思いがちですが、熟睡を妨げるため、決して質のよい睡眠をもたらすものではありません。遅い時間のアルコールは控えてください。
  • 食品の中にも、それぞれに含まれる栄養素が睡眠の質の向上につながるものがたくさんあります。セロトニン、メラトニンを合成する材料となるトリプトファンを多く含む、乳製品、豆腐・納豆・みそなどの大豆加工食品、カツオやマグロなどの青魚、ナッツ類、穀類のほか、卵、バナナ、ごまなどです。トリプトファンは体内で合成することができず、食事から摂取する必要のある必須アミノ酸です。食欲がないときは、バナナと牛乳やヨーグルトでもトリプトファンをしっかり摂取することができます。また、セロトニンはトリプトファン以外にもマグネシウム、ビタミンB6やナイアシンからも合成されるので、ひじき・昆布・わかめなどの海藻、サンマ、にんにく、きのこ類や緑黄色野菜を摂るようにしましょう。GABAはトマト、発芽玄米、納豆などの発酵食品に含まれています。さらに、からだの末端の血行量を増やして内臓の熱量を下げ、深部体温を低下させる働きにより、質のよい睡眠をもたらすことが期待できるグリシンは肉類、魚介類に多く含まれます。

【相談】

  • 将来への不安や緊張で眠れないときは、主治医、看護師、緩和ケアチームに相談してください。
  • 心配事や不安をひとりで抱え込まずに、ご家族をはじめ身近な人と話し合う、あるいはご自身と同じように闘病中の方や、がんサバイバーの方たちと思いを共有する(“ピアサポート”といいます)ことも大切です。

【コラム】②豆知識

脳内で分泌され、睡眠に関わる物質
睡眠のリズムの維持や質の向上に関わる物質を紹介します。
体内時計をつかさどり、目覚めと睡眠を切り替えるスイッチの役割を担うホルモンであるメラトニンが脳の「松果体しょうかたい」という組織から分泌されています。メラトニンの分泌が高まると、深部体温が低下し、からだが休息モードに導かれて自然な眠りがもたらされることから、メラトニンは「睡眠ホルモン」とも呼ばれます。メラトニンは夜間に多く分泌され、朝、日光をあびて目の網膜から入った光の刺激が脳に伝わると、分泌が止まります。そのため、夜に強い照明にさらされているとメラトニンの分泌が抑えられ、睡眠と目覚めのリズムが乱れてしまうのです。
メラトニンとともに睡眠の質の向上を左右する物質にセロトニンがあります。脳内で働く神経伝達物質で、神経の興奮を抑えて精神や感情を落ち着かせ、和らげる効果をもたらすため、「しあわせホルモン」と呼ばれることもあります。
脳や脊髄で働く神経伝達物質であるGABAにも抗ストレス作用や神経の興奮を鎮める働きがあります。

参考
  • 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK,照林社,2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版,南江堂,2019年 
  • 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット 不眠症
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
引用
  • 1)Savard J, et al. J Clin Oncol 2001; 19:895-908.
監修:
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長・部長 森田 達也 先生