食欲不振は進行がんの患者さんの75~80%に生じます。胃がん、膵がん、肺がんに多いといわれますが、症状が進行したケースではほぼすべてのがんで食欲不振を生じる可能性があります1),2)。がん悪液質は、胃がん、膵がんでは80%以上、大腸がん、前立腺がんでは50%、乳がん、白血病では40%に出現するとの報告があります3)。
【コラム】「がん悪液質(あくえきしつ)」とは
がんになると、食欲不振や体重減少などが起こりますが、原因の一つにがん悪液質があります。がん悪液質では主にがんがつくり出す「サイトカイン」という物質によって、たんぱく質、炭水化物、脂肪などの代謝に異常が起こります。その結果、筋肉量や脂肪量が減少することで体重が減ってきます。
がん悪液質による食欲不振の主なしくみは、がん細胞、またはがんに対する免疫反応として免疫細胞がつくり出す炎症性物質(サイトカイン)が脳の食欲を刺激する神経のはたらきを抑えることで生じると考えられています。悪液質に至るまでにも、味覚障害や臭覚障害、あるいはがんに伴う発熱、痛み、呼吸困難、消化管閉塞、悪心・おう吐、便秘、下痢等の消化器症状や抑うつ状態など実にさまざまなことがきっかけとなり、食欲がなくなってしまうことがあります。
「食べたくない」「食べられない」というのは主観的な症状なので、食事量の増減は食欲不振の目安とはなるものの、主観的な食欲不振を直接反映するものではありません。本当は食べたくないのに無理に食べていないか、体重が減っていないかなどを、家族や周りの方が気をつけて見守り、食べ物や水分を摂ることができない、何回も吐いてしまうような場合は主治医や看護師に相談する必要があります。十分な量・種類を食べられずに栄養バランスが偏ったとしても、すぐに悪影響が出るわけではありませんから、吐き気があるときなどは、無理に食べる必要はありません。特にがん悪液質は、食べて栄養補給ができれば体力が回復する「飢餓状態」とは異なり、栄養療法・運動療法・薬物療法を組み合わせた治療が必要となります4)。患者さん、ご家族共に主治医等から説明を受け、病気について正しく理解したうえで、どのような栄養サポートを受けることができるかを医師、薬剤師、看護師に相談し、栄養管理のプロフェッショナルである管理栄養士や、場合によってはリハビリテーションに関わる理学療法士のアドバイスも受けてください。それぞれの患者さんに合った対応が大切です。不安やつらさ、不眠などの精神的負担についてはこころの専門家であるカウンセラーや臨床心理士に話をしてみるなど、できるだけ自分らしい生活と体調を維持できるよう、生活を工夫していきましょう。