食欲低下への対策

こんな症状

  • 食べたい欲求が消え、実際に食べる量が減った状態
  • 食欲不振を伴うがん悪液質は、「がん食欲不振・悪液質症候群」と呼ばれ、脂肪量の減少の有無に関わらず骨格筋量の持続的な減少が特徴
    ※[あくえきしつ]: 体の正常な細胞が必要とする栄養をがん細胞が奪ってしまうことで、がんの進行とともに体が衰弱する状態

主な原因

がんによるもの

  • 消化器がん、膵がん、肺がんをはじめ、すべてのがん
  • がん悪液質、その他の電解質異常(高カルシウム血症、低ナトリウム血症など)
  • 消化器がんによる消化管通過障害
  • 腹水、肝臓の腫れによる消化管の圧迫
  • 疼痛
  • 発熱

がん治療によるもの

  • 化学療法や放射線療法、症状の緩和のために使われる薬(オピオイドなどの鎮痛薬、抗うつ薬等)の副作用:口内炎、口内乾燥、味覚異常、便秘、下痢、悪心・おう吐、発熱、倦怠感など
  • 高カロリー輸液

がん以外によるもの

  • 嚥下えんげ障害: 飲み込むときにつかえる、むせる
  • 逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など
  • 消化管閉塞(胃腸に細く狭まっている部分がある状態)
  • 入れ歯が合わない、虫歯など
  • 精神的・心理的な刺激(不安、ストレス、抑うつ、強い悲しみなど)
  • 環境の変化

食欲不振は進行がんの患者さんの75~80%に生じます。胃がん、膵がん、肺がんに多いといわれますが、症状が進行したケースではほぼすべてのがんで食欲不振を生じる可能性があります1),2)。がん悪液質は、胃がん、膵がんでは80%以上、大腸がん、前立腺がんでは50%、乳がん、白血病では40%に出現するとの報告があります3)

【コラム】「がん悪液質(あくえきしつ)」とは

がんになると、食欲不振や体重減少などが起こりますが、原因の一つにがん悪液質があります。がん悪液質では主にがんがつくり出す「サイトカイン」という物質によって、たんぱく質、炭水化物、脂肪などの代謝に異常が起こります。その結果、筋肉量や脂肪量が減少することで体重が減ってきます。

がん悪液質による食欲不振の主なしくみは、がん細胞、またはがんに対する免疫反応として免疫細胞がつくり出す炎症性物質(サイトカイン)が脳の食欲を刺激する神経のはたらきを抑えることで生じると考えられています。悪液質に至るまでにも、味覚障害や臭覚障害、あるいはがんに伴う発熱、痛み、呼吸困難、消化管閉塞、悪心・おう吐、便秘、下痢等の消化器症状や抑うつ状態など実にさまざまなことがきっかけとなり、食欲がなくなってしまうことがあります。

「食べたくない」「食べられない」というのは主観的な症状なので、食事量の増減は食欲不振の目安とはなるものの、主観的な食欲不振を直接反映するものではありません。本当は食べたくないのに無理に食べていないか、体重が減っていないかなどを、家族や周りの方が気をつけて見守り、食べ物や水分を摂ることができない、何回も吐いてしまうような場合は主治医や看護師に相談する必要があります。十分な量・種類を食べられずに栄養バランスが偏ったとしても、すぐに悪影響が出るわけではありませんから、吐き気があるときなどは、無理に食べる必要はありません。特にがん悪液質は、食べて栄養補給ができれば体力が回復する「飢餓状態」とは異なり、栄養療法・運動療法・薬物療法を組み合わせた治療が必要となります4)。患者さん、ご家族共に主治医等から説明を受け、病気について正しく理解したうえで、どのような栄養サポートを受けることができるかを医師、薬剤師、看護師に相談し、栄養管理のプロフェッショナルである管理栄養士や、場合によってはリハビリテーションに関わる理学療法士のアドバイスも受けてください。それぞれの患者さんに合った対応が大切です。不安やつらさ、不眠などの精神的負担についてはこころの専門家であるカウンセラーや臨床心理士に話をしてみるなど、できるだけ自分らしい生活と体調を維持できるよう、生活を工夫していきましょう。

参考
  • 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本緩和医療学会編:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン, 金原出版, 2017年
  • Amano K, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle 2016; 7:527-534.
  • 国立がん研究センター がん情報サービス「食欲がない・食欲不振」:
    https://ganjoho.jp/public/support/condition/anorexia.html(閲覧日:2023年2月28日)
引用
  • 1)Dy SM, et al. J Clin Oncology 2008; 26:3886-3895.
  • 2)Amano K, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle 2017; 8:457-465.
  • 3)Argliés JM, et al. Nat Rev Cancer 2014; 14:754-762.
  • 4)天野晃滋 他. Palliative Care Research 2017; 12(2):401-407.

【コラム】食欲を増進させるホルモン

グレリン

成長ホルモン分泌促進物質として、日本の研究者により1999年に発見されたタンパク質。主に胃から分泌され、迷走神経を刺激して脳の中枢に空腹シグナルを伝えるホルモンで、食欲を高め、摂食量を増加させます。摂食障害の状態や空腹時に血中のグレリン濃度は高まり、摂食後に低下することが示されています。1),2)

引用:
  • 1)中里雅光. 第124回日本医学会シンポジウム記録集 肥満の科学 2003:45-52.
  • 2)児島将康, 寒川賢治. 生化学2007; 79(9):853-867.

食欲不振があるときの工夫

【食べ物の選び方】

  • 冷たいもの、のど越しのよいもの、やわらかいものが比較的食べやすいと言われます。酢の物や酢飯、スープや汁気の多いものが食べやすい場合もあります。例えば、麺類、コンソメのゼリーや茶碗蒸し、豆腐、アイスクリーム、シャーベット、くだものなどが挙げられます。
  • 食べ物のにおいが気になるときは、冷蔵庫で冷やしたり、室温程度に冷ましてから食べましょう。
  • 同じ量であれば高エネルギー、高タンパク質、ビタミンを多く含む食材を選びましょう。高エネルギーの栄養ゼリーなど手に入りやすい栄養補助食品を利用するのもおすすめです。
くだもの、アイス

【食べ方の工夫】

  • 1日3食にこだわる必要はありません。「食べたいときに、食べたいものを、1日に何回食べてもOK」を新しい常識にしてください。そのために、小分けして保存しやすいもの、電子レンジで手軽に温められる冷凍食品など、食べたいときに手早く調理や用意ができる食材・食品を活用しましょう。
  • ご家族や介護に携わる方々の「少しでも食べないと弱ってしまう」、「何とか食べてもらいたい」という気持ちは自然な思いなのですが、食べた方がよいと思いながらも、どうしても食べることができない患者さんとの間で険悪な雰囲気になってしまうことも少なくありません。患者さんご自身が「ちょっと何か食べてみようかな」、「今なら食べられそう」と思ったタイミングで、手軽に口に入れられるカットフルーツや一口サイズのおにぎり、好物を用意しておくことや、レトルト食品や冷凍食品、市販のお惣菜や缶詰などもうまく利用して、簡単だけど一工夫の調理で、患者さんと一緒に食べられるものを探すつもりで寄り添っていくことができるとよいです。
  • 盛り付けを工夫する、季節感のある食器や好みの食器を使う、花を飾るなどの演出により、食卓の雰囲気が変わって食欲がでることがあります。
  • 無理でなければ、食事の前にぐっと伸びをするなど少し身体を動かしてみることもよいでしょう。
  • 食べやすい姿勢でリラックスして食事ができるような環境を心がけましょう。
  • 抗がん剤、放射線による治療の影響で味覚が変化したり、唾液が減って食べにくいときは、こまめにうがいをし、市販の口腔保湿スプレーやジェルなどを使うと症状が和らぐとされます。また、あめをなめる、ガムを噛む、食事のときにはよく噛むと唾液の分泌が促されます。
盛り付けを工夫
参考
  • 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本緩和医療学会編:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン, 金原出版, 2017年
  • 国立がん研究センター がん情報サービス「食欲がない・食欲不振」:
    https://ganjoho.jp/public/support/condition/anorexia.html(閲覧日:2023年2月28日)
監修:
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長 森田 達也 先生

(2023年5月作成)