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下痢への対策

こんな症状

  • 便の水分が過剰になった状態で、液状~泥状の便や形のない便となり、排便回数が1日3回以上または普段よりも増える
  • 急激に発症して2~3週間以内に軽快する「急性下痢」と、3~4週間以上下痢状態が続く「慢性下痢」がある
  • 中等度以上の下痢では脱水や栄養障害を生じる。脱水状態では口の渇き、倦怠感などの自覚症状が現れ、手足のしびれ感を伴うこともある。皮膚の乾燥やツルゴール低下(コラム①:ことばの説明 参照)も早期に脱水に気付くことができる自覚・他覚症状である。低栄養状態になると、下痢による肛門周囲の皮膚汚染から発生した皮膚炎や、日常生活動作(ADL)の低下に伴い生じやすくなる褥瘡じょくそう(いわゆる床ずれ)の治りが悪い、悪化する、または新たにできやすくなるなどの影響が認められる
  • 下痢が長く続くと、肛門の周りに痛みや炎症を生じる

主な原因

がんによるもの

  • 消化器がん、肝臓がん、膵臓がんなど
  • がんによる消化機能の低下(消化酵素の分泌低下、水分吸収機能低下など)
  • 全身状態の悪化による消化/吸収不良

がん治療によるもの

  • 大腸がん術後:直腸切断により便をためる場所がなくなる、肛門括約筋切除により排便コントロールができなくなる、結腸切除による水分吸収機能の低下、上部小腸への人工肛門(ストーマ)造設による未消化水様便(便の水分量は、小腸>上行結腸>横行結腸>下行結腸>S状結腸と、肛門側に近くなるほど吸収が進み、少なくなる) など
  • 膵臓がん術後:膵臓と周囲の神経を切除するため、腸管運動の制御ができなくなる、膵液分泌不良から消化酵素の分泌低下による消化不良が原因の脂肪性下痢(脂肪便) など
  • 化学療法(分子標的薬を含む)で使われる抗がん薬による副作用
  • 免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用(irAE)
  • 2剤以上の抗がん薬の組み合わせ併用(重度の下痢が起こりやすくなる場合がある)
  • 腹部への放射線照射(膵臓がん、胆道がん、肝臓がん、腎臓がん、結腸がん、腹部リンパ節転移など)、骨盤内への放射線照射(前立腺がん、子宮がん、膀胱がん、直腸・肛門がん、精巣腫瘍など)
  • 放射線療法による骨髄抑制時の感染

がん以外によるもの

  • 細菌、ウイルスによる感染症に伴う急性下痢症
  • 腸閉塞や宿便により腸内圧が高まることによる下痢
  • 便秘に対する下剤の過量
  • 抗菌薬、免疫抑制薬、一部の消化器用薬、痛風発作予防薬などが原因の薬剤性下痢
  • 不安やストレスなど、心理的、精神的な負担
  • 高齢者、腎機能障害、肝機能障害などはリスク因子

がん患者さんの14%が脱水症状を伴う中等度以上の下痢を経験します1)。がん治療において、代謝拮抗薬とよばれる種類の抗がん薬を用いた化学療法中の患者さんでは50〜80%に生じるとされます2),3)。抗がん薬の投薬中~投薬後24時間以内の早期に起きる「早発性下痢」と、投薬後数日~10日くらい経ってから起きる「遅発性下痢」があります4),5)
また、子宮がんや前立腺がんなどの治療のための骨盤内放射線照射後は、短期間のうちに約50%が下痢を経験します6)。消化器は放射線感受性が高いため、消化管に炎症が生じる結果、腸の機能が低下して下痢になります。多くの場合、放射線療法終了後2~3週間以内に落ち着きます4)が、照射後6ヵ月以上~25年ほど経ってから、晩期障害として腸管粘膜の虚血性変化により照射部位の組織が障害され、難治性の血性下痢が発現することもあります7)
下痢の治療に先立ち、原因を診断するため、下痢の発症時期と継続期間、1日の排便回数、便の性状、食事との関連、腹痛や発熱などの随伴症状の有無に加え、原疾患の経過、治療履歴、既往症の確認および血液検査などの検査が必要となります。ブリストル便形状スケールを参考に1日の排便回数や性状、どれくらい下痢が続いているか、食べた物、その他気付いたことや気になることを記録して、主治医や看護師に伝えるようにしてください。こうして診断された原因と病態に応じた治療が行われます。単純に下痢止めを使うのではなく、原因と考えられる抗がん薬や下剤の減量・一時中止、感染源に応じた抗菌薬による治療、脱水に対する水分・電解質の補給などを含め、適切な治療法を医師が判断します。

【コラム①】ことばの説明:ツルゴールの低下

ツルゴール(Turgor)とは、皮膚に「張り」や「緊張」がある状態のことです。
語源は、「腫れる、膨張する」などの意味を持つラテン語です。

《ツルゴールの低下の調べ方》

  1. 1.  手の甲または鎖骨上の皮膚を、親指と人差し指で軽くつまみます。手の甲にしわが多い老人などでは、前胸部または鎖骨上の皮膚がわかりやすいでしょう。
  2. 2.  指を離して、つまんだ皮膚のもどり時間を評価します。
  3. 3.  2秒以内にもどれば正常、2秒以上かかる場合には「脱水」を疑います。
ツルゴールの低下の調べ方

参考:エキスパートナースWEB 医療ことば図鑑 No.15「ツルゴール」
https://www.expertnurse.shorinsha.co.jp/posts/12143279/(閲覧日:2023年2月28日)

【コラム②】重度の下痢は、ときに命に関わることがあります

重度の下痢で著しい脱水になると、体液のバランスがくずれて腎臓や心臓にも大きな負担がかかり、腎不全、循環不全を起こすことがあります。脱水の症状には乏尿ぼうにょう(尿量の減少)・濃縮尿(尿の色が濃くなる)があり、脈が速くなる、血圧が低下するなどの全身症状、さらに進行すると意識障害などの重篤な症状が生じ、命に関わる状態になることがあります。また感染症が原因の場合は、下痢とともにしぶり腹、腹痛、悪心おしん・おう吐、寒気や震えを伴う高熱、食欲不振などを生じ、重篤になると敗血症性ショックを起こすこともあります。「便が泥状や水のようになっている」「切迫した便意またはしぶり腹がある」「差し込むような激しい腹痛がある」「トイレから離れられない程頻回に下痢をする」「便に粘液状のもの、または血液が混じる」といった症状が続くときは、我慢したり放置せず、必ず主治医や看護師に相談してください。骨盤内への放射線照射後、数ヵ月以上経ってから生じる難治性の下痢では倦怠感や貧血症状が現れることもあるので、定期検査ごとに便通の報告をするようにしましょう。

お腹が張って頻繁に便意があるのに便がほとんど出ない症状。裏急後重りきゅうこうじゅう、テネスムスともいう。

ブリストル便形状スケール

スケールのタイプ4が健康的な便です。5以上が「下痢」の目安とされ、1、2が「便秘」に相当します。
毎日排便があるか、硬さや量、形を記録しておくと診療に役立ちます。化学療法や放射線治療を受けている場合、抗がん薬に限らず薬を服用している場合は、下痢の原因となっている可能性も考えられるので、治療を始めてからの日数、薬の種類・量などをわかる範囲で記録しておき、主治医に伝えましょう。

ブリストル便形状スケール
O'Donnell LI, et al. BMJ. 1990; 300(6722):439-440 より作成
参考
  • 田村和夫 他編:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 医薬品医療機器総合機構 重篤副作用疾患別対応マニュアル(患者・一般の方向け)「重度の下痢」令和3年4月改訂
    https://www.pmda.go.jp/files/000240143.pdf(閲覧日:2023年5月12日)
引用
  • 1)Cleeland CS, et al. Cancer 2000; 89:1634-1646
  • 2)Rothenberg ML, et al. J Cline Oncol 1996; 14:1128-1135
  • 3)Cherny NI. J Pain Symptom Manage 2008; 36:413-423
  • 4)田村和夫 他編:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年. p.236-243
  • 5)医薬品医療機器総合機構 重篤副作用疾患別対応マニュアル(患者・一般の方向け)「重度の下痢」 令和3年4月改訂
    https://www.pmda.go.jp/files/000240143.pdf(閲覧日:2023年5月12日)
  • 6)Benson AB 3rd et al. J Cline Oncol 2004; 22:2918-2926
  • 7)日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年. p.124-131

下痢があるときの工夫

【水分と電解質をとる】

  • 脱水を防ぐために、水やお茶だけでなく、スポーツドリンクや経口補水液など、水分とナトリウムやカリウムなどの電解質を含む飲み物も飲みましょう。嚥下障害がある場合は、ゼリー状の経口補水液も市販されています。
  • スポーツドリンク以外にも、味噌汁やスープ、果汁など口に合う物を選んでください。
  • 冷たい飲み物は避け、常温で飲みましょう。

【お腹にやさしい食事】

  • おかゆなど消化によいものを食べましょう。
  • 肉類などの高脂肪食、食物繊維が豊富な食品、生ものを避け、アルコール、カフェインや香辛料などの刺激物を控えましょう。
  • 冷たい食べ物より、常温に近い方が胃腸への負担が少ないです。
  • ビフィズス菌や乳酸菌といった生きた微生物を含むヨーグルトなどは、お腹の調子を整えて、放射線治療などに伴う下痢を和らげる可能性が期待できます。

【おしりのケア】

  • 下痢が続くと肛門周辺の皮膚が炎症を起こしやすくなり、ただれたり、腫れて痛くなることがあります。温水洗浄便座を使用、排便後にぬるま湯でやさしく洗浄するなどして清潔を保ちましょう。ただし、洗いすぎはかえって皮膚のバリア機能を損ない逆効果となるので、ほどほどを心掛けてください。
  • トイレットペーパーがこすれて痛いときは、皮膚を保護するオイルや市販の洗浄液をトイレットペーパーに含ませて、押さえるように拭き取ると刺激を和らげることができます。
  • 炎症を起こしてかゆい、痛い、しみるなどの症状は、抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、ステロイド軟膏などで処置ができます。早めに医師に相談しましょう。
  • 夜間や外出時など便のもれが心配なときは、軟便用のパッド(軟便モレパッド)を使うと安心ですが、肌のトラブルや清潔には十分注意し、パッドやおむつに頼りきらないことが望ましいでしょう。
  • 日常生活動作が困難となり、車椅子に座ったままやベッドに寝たままの時間が長くなると褥瘡を生じやすくなりますが、長引く下痢が重なるとさらに褥瘡発生リスクが高まります。マットの選び方や、体の圧力がかかる部分を分散させるための体位変換など、褥瘡を起こしにくくする工夫も大切です。ご家族や介護に携わる方の配慮が求められます。

【こんなときは相談を】

  • 下痢が続く場合は、すみやかに主治医や看護師に相談してください。特に高齢者では、脱水で急激に体調が悪化することがあるので注意が必要です。
参考
  • 田村和夫 他編:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本がん看護学会監修:病態・治療をふまえたがん患者の排便ケア, 医学書院, 2016年
  • 森田達也 他監修:緩和ケアレジデントマニュアル第2版 医学書院, 2022年
  • 国立がん研究センター がん情報サービス 「下痢」
    https://ganjoho.jp/public/support/condition/diarrhea.html(閲覧日:2023年2月28日)
監修:
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長 森田 達也 先生

(2023年5月作成)