WSさん 50代 肺がんステージⅣ

がんサバイバーとは、がんが治癒した人だけではなく、がんの診断を受けた時から死を迎えるまでの全ての段階にある「がんの経験者」を指します。

個人の体験談であり、個人情報保護の観点から一部の情報を改変しています。
この記事の内容を参考に運動や食事を工夫してくだされば幸いです。ただし、ご自身の治療内容や生活上の注意点については、必ず主治医にご相談ください。

WSさん 50代

WSさん 50代 肺がんステージⅣ(2022年現在)
妻と2人暮らし、遠方に嫁いだ娘が1人いる

  • 2015年 肺がんステージⅣと診断後、抗がん剤治療を開始。薬剤を変更しながら治療を継続。治療のために休職後退職
  • 2021年 新しい抗がん剤に適応することがわかり、入院して投与開始。副作用が原因で体重が落ちる
  • 2022年 治療しながら再就職したが、現在は休職中。体重は少しずつ回復

1日のスケジュール表

休 職(治療の副作用で運動機能障害と、胸水貯留のため息切れがあった)

06:50
起床
08:00
ストレッチ
09:00
朝食
10:00
体調がよければ散歩
1日3食の規則正しい生活を心がけています。
朝夕歩くと、疲れてよく眠れます。
散歩
12:30
昼食 昼食の後、30分から1時間の昼寝
15:00
体調がよければ散歩と、
軽いストレッチと
筋力トレーニング
手の届くところに置いて、時間があればストレッチや上半身を鍛えています。
筋力トレーニング器具
17:00
買い物、夕食の準備
18:30
夕食
20:00
入浴
22:00
就寝

1日のスケジュール表

復 職

06:30
起床
07:15
朝食
07:35
出勤 体調がよければ徒歩で
08:30
勤務時間
12:00
昼食
12:15
トレーニング
職場にトレーニング室があったので
昼食後30分ほどストレッチやスクワットなどの簡単な運動をしていました。
スクワット
13:00
勤務時間
17:15
退勤
18:30
夕食
胃を休めるために、夕食から就寝までの時間は空けるようにしています。
胃を休める
20:00
入浴
22:00
就寝

健康に配慮していたのに進行した肺がんが見つかり、かなりショックを受けました

WSさん2015年の梅雨の時期に吐き気や腹痛で夜中に目覚めることが続き、散歩の時に息切れもしたので、これはおかしいと思い、近所のクリニックを受診しました。

すぐに総合病院を紹介され、画像検査をした結果、肺がん(原発巣)と副腎への転移が確認されました。毎年健康診断も受けていたし、タバコも吸わないのに、ステージⅣまで進行して発見されたのでかなりショックでしたね。

食欲がない時は、おふくろの味「雑煮」を食べました

WSさんさいわい、抗がん剤治療中に吐き気でトイレにこもるようなことはありませんでしたが、抗がん剤投与後1週間ほどは食欲がまったくわきませんでした。

食欲がない時は、そうめんなどの麺類が食べやすいと聞きますが、僕の場合はお餅でした。母が子どもの頃に作ってくれた醤油仕立てのだし汁に岩のりをのせただけのシンプルな雑煮にして食べました。作るのも簡単ですし、慣れ親しんだ味がよかったのかもしれません。食べたくない気分の時でも3個も食べられることがありました。

雑煮

あと、カレーとか辛いものなら食べたい時もありました。抗がん剤治療の副作用で口の中に炎症がある時は、クミンやサフランをきかせた辛くないカレーを作り、香りや見た目で食欲をあげる工夫をしました。

クミンやサフランをきかせた辛くないカレー

たんぱく質(鶏肉、豆腐、卵)を意識して食べています

WSさん食べられる時は体重を減らさないために、筋肉や骨、血液になる重要な栄養素「たんぱく質」をいつも意識して食べるようにしています。よく食べるのは鶏肉で、ムネ肉よりもモモ肉のほうがおいしいのでグリルして食べています。豆腐と卵もよく食べていて、ご飯がすすまない時は、温泉卵を作ってつるっと飲み込むだけでも体力が回復したように感じます。

モモ肉のグリル焼き
食欲がある時に自分で作った春の夕食

◆食欲がある時に自分で作った春の夕食
(おかずは3人前)

  • タケノコご飯
  • 豆腐とごぼうの味噌汁
  • 卵焼き
  • コロッケ
  • レタスのサラダ
  • きゅうりの漬物

がんと診断されてから、家族や友人知人にいろんな食事法をすすめられましたけど、たんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルといった5大栄養素をバランスよく食べることに行き着いたように思います。ただ、無農薬の人参ジュースは体に合うようで続けています。どうしても食べられない時は甘いものも好きなので栄養素(たんぱく質、カルシウム、鉄、亜鉛、食物繊維)の入ったアイスクリームを食べたりします。

なるべく食べて運動するのは、画期的な新薬の開発を待つためです

WSさんステージⅣの肺がんと診断された時は、「ああ、もう死ぬのかな」と絶望しました。しかし、改めて調べていくうちに、新しい薬が次々に開発されていることを知り「体力を維持して全身の状態を保っていれば、最新の薬を使うチャンスがくる」ということに気づきました。実際に、一次治療を終えて維持療法を続けた後に、新しい治療薬による治療を受けることができています。もちろん、どうしても食べたくない時は食べないこともあります。しかし、その期間を短くするのは健康で長生きしようっていう意気込みがあるからです。僕は海が好きで、もう少し体力が回復したらサーフィンがしたくて楽しみにしているんです。

イチ押しの運動は、朝の散歩です

WSさん若い頃から体を鍛えるのが好きで、細いけど筋肉質でした。しかし、今の治療を受けてから1週間で体重が10%ほど減り、あっという間に筋力が弱まって手足が動かしにくくなりました(運動機能障害)。胸水貯留もあるため息切れもあり、理学療法士さんにアドバイスをもらいながら、ストレッチや歩行訓練から始めました。食事量が増えたあたりから筋力トレーニングも追加して行えるようになり、それに伴って体重や筋肉量が増え始め、食事の大切さも実感しました。

僕のおすすめの運動は、1日のリズムを整える意味でも朝の散歩です。朝の早い時間に胸を張って、腕を振って歩くのがコツで、体調がよい時は朝と夕方にそれぞれ1時間ずつ歩くこともありますし、景色がよいところまで車で行って歩くこともあります。雨の日は家の中でテレビを見ながらスクワットをして、足の筋肉を鍛えています。また、時間がある時はストレッチポールやトレーニング・チューブを使用して、胸郭を広げるストレッチや、上半身を鍛える運動を中心にしています。

〈がんサバイバーのみなさまへ〉
正しい情報を得ると、逆にがんへの恐れが減りました

WSさん同じ肺がんの方と話した際、ご自分の治療や病状を知らない方が多く、「医師には怖くて聞けない」と言われる方がほとんどでした。しかし、目を背けずに正しい情報を得ることが大切だと思います。僕の場合、ネットの情報は信じず、日本肺癌学会の公開講座などに参加することで医療の進歩を知って、新薬への期待から体力維持に努めるようになりました。さらに、自分の病気を知ることで、余計な不安や恐怖が逆に減り、治療について主治医と忌たんなく話すことができました。これらは今の体調の良好さにつながっていると思います。

また、僕は精神が強いとよく言われますが、そのようなこともなく、診断当初はがんになった怒りや悲しみといった感情に振り回されていました。解決するために、車の中で泣ける音楽をかけてわざと泣いてみました。すると不思議とすっきりしたのでおすすめです。

監修医からの一言

管理栄養士の先生より

がんサバイバーにとっての運動と食事の大切さを理解し、なおかつ日々の生活の中で実践されている姿勢に頭が下がります。食欲がない時は旬の味覚(タケノコ)やスパイスの風味、見た目のおいしさ(サフランライスのカレー)、慣れ親しんだ味(お雑煮)で食欲を刺激する工夫もすばらしいですね。
体重と筋力を維持するためには、ある程度の運動と高カロリー高たんぱく質の食事を摂る工夫が大切です。アーモンドやピーナッツなどの間食を取り入れてもよいと思います。

理学療法士の先生より

近年はがん患者さんに対して、リハビリテーションプログラムを提供する病院が増えています。しかし、がんに伴う症状や治療の副作用などで運動を継続できない患者さんも多いので、ここまで積極的に運動に取り組まれているのは尊敬に値します。これからもぜひ続けていただきたいです。また、食卓椅子からの立ち座りを繰り返すだけでも運動になりますので、普段の生活の中に簡単な運動を取り入れてみてください。必要に応じて、理学療法士と相談をしながら、その時々の体調や1日のスケジュールに沿った運動メニューを考えてもらうのもよいでしょう。

  • 監修:
    愛媛大学医学部附属病院 栄養部
    部長 利光 久美子 先生
    名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻
    予防・リハビリテーション科学 創生理学療法学講座
    立松 典篤 先生