事例②:眉毛の脱毛や顔色の変化で引きこもりがちに
~21歳・女性・大学生の場合~

がん治療による外見の変化で、
人と会うのがおっくうになった?

40.2%

の人がはい

外見の変化は、交友関係を狭める要因になりえます。

外見の変化による悩みの根底は、「これまでの人間関係が続けられないかもしれない」というものです。人間関係の悩みは、人間関係でしか解決できません。
少しおしゃれをして、一歩踏み出してみるのはいかがでしょうか?

お医者さんのイラスト

[調査方法]日本における性別・部位別のがん罹患率の割合を可能な限り反映できるよう、オンライン調査会社に登録された調査対象者から無作為に選び、1,000名以上の有効回答が得られるまで、匿名の自記式調査をインターネットで行いました。本調査は2018年3月2日から22日まで実施し、1,034名(男性518名、女性516名)の回答が得られました。

Nozawa K et al. Global Health & Medicine 2023;5(1):54-61.

BTさん:21歳 女性
職業:大学生
疾患:子宮頸がん

抗がん剤の影響で、眉毛が薄くなり、顔色も黒ずみ、しみもひどくなったので、自分の顔ではなくなってしまったように感じて、誰にも顔を見られたくありません。友達の誘いを断り続けていたら、その中の1人から「性格まで暗くなったね」と言われてしまい、さらに落ち込んでいます。大学にも行かず、オンラインで授業を受けていますが、親からは学校に行くように言われて、気が重いです。

眉毛の脱毛や顔色の変化で引きこもりがちな女性

顔色を明るくする工夫で、顔の印象は大きく変わる

皮膚の色には、色素細胞が産出する色素であるメラニン色素が関係していますが、抗がん剤によってメラニンの産出が増えることがあり、色素増強から顔色が暗くなったり、しみ、くすみが目立つようになったりすることがあります1)。こうした色素異常は、紫外線を浴びることによっても起こります。

顔色が変化すると、人に会うのが嫌になり、QOL(生活の質)にも大きな影響を与えることがあります。一方で、意識しすぎて、至近距離でずっと鏡を眺めていると、余計に顔色が黒く感じてしまうこともあります。私はよく、「鏡を見るときは1.5mくらい離れてください」とお伝えしています。実際には、周囲の人からは、「日焼け」程度にしか思われていないことも多くあります。相談に来られた方の多くは、「ゴルフ焼け、ガーデニング焼けで通用しますね」と言うと、安心してそのままお帰りになります。もちろん、カバーメイクの方法をアドバイスすることもありますが、メイクで隠そうとすると、かえって白浮きして、不自然になることもあります。男女問わずですが、ファンデーションを塗らなくても、オレンジ系のチークをつけるだけで、顔色が明るく見えますので、ぜひ、お試しいただきたいと思います。

高価な美白剤を購入する方もいらっしゃいますが、抗がん剤治療中の色素沈着の治療に、美白剤の科学的根拠は認められていません。むしろ、ふだんから日焼け止めをしっかり塗って、紫外線対策を行うなど、抗がん剤以外の色素沈着の原因を排除するようにしましょう。

対人関係の悩みは、対人関係でしか癒せない

外見の変化に悩み、学校を辞めてしまった方が、当時を振り返り、「あのときの本当の悩みは、『友達との関係を続けたい』ということだったと今頃気づいた」と打ち明けてくれたことがありました。外見の悩みの根底は、実は、人間関係の悩みです。そして、その悩みは、人間関係でしか解決できません。そのためにも、身なりを整えて、少しおしゃれをして、一歩踏み出してみる、外に出てみることが大切なのです。

がんだからといって、特別なことはしなくても大丈夫です。姿勢を正したり、服装や声のトーンなどを明るくしたりするだけで、顔の印象も大きく変わります。あとは、自分が変えたいと思うところをネットなどで探すとよいでしょう。きれいな眉の描き方、カバーメイクの方法、ウィッグのかぶり方やお手入れ方法に至るまで、SNSやYouTubeのような動画サイトに情報があふれています。AYA世代(15歳~39歳の思春期・若年成人世代)は、とても器用な世代でもあるので、変えたいと思ったところから少しずつ変えていくようにすればよいでしょう。

引きこもってもよいけれど、その期間は新しいことにチャレンジする

がんになって落ち込むのは、いたって正常な反応です。BTさんのように、誘いを断ったことで友達に「暗くなったね」と言われても、傷つくことはありませんし、一定期間、引きこもってもよいでしょう。つらいことから逃げることも自分の心を守るために必要です。ただ、引きこもっている間に、できそうなことを試してみたり、学校に行きたくなければ、他の場所を探して新しい関係をつくってみたりなど、新しいことにチャレンジしてほしいと思います。「できた」の積み重ねが、自信につながっていきます。

また、周囲のご家族や友達の方は、態度を変えずに付き合うようにしてください。どうしたらよいか分からなければ、本人に何をしてほしいか聞いてみましょう。「これまで通りに接するけど、体調の悪いときなど、配慮が必要なときは言ってね」と伝えれば、患者さんも心強いと思います。

ご家族は、本人の希望に沿った支援を

人間関係といえば、家族も大きな存在です。しかし、一番の味方ゆえに、患者さんは「家族に迷惑をかけたくない」と悩み、家族は「何かしてあげたい」と思っています。これが長く続くと、お互い負担を感じるようになってしまうので注意が必要です。

特に、ご家族にお願いしたいのは、患者さんの希望をよく確認するということです。例えば、「○○さんちのお子さん、がんみたい」と、うわさされるとかわいそうだから、と、本人が乗り気ではないのに、ウィッグをむりにかぶせる。それは、「あなたの病気は隠さないと恥ずかしいこと」というつらいメッセージになりかねません。家族だけは、ありのままの自分を受け入れてくれるという安心が、患者さんを勇気づけます。外見に関しては、本人の考えを大切にしてほしいと思います。

  • 1) 野澤桂子, 藤間勝子編:臨床で活かす がん患者のアピアランスケア 改訂2版, p95-99, 南山堂, 2024年
監修:
  • 目白大学 看護学部看護学科 教授
    (臨床心理士・公認心理師)
    野澤桂子 先生

(2023年3月作成)
(2024年3月更新)