疼痛とうつう(頭痛を含む)への対策

こんな症状

  • 痛む部位が限られていて、からだを動かすと痛みが強くなる。鋭い痛みで、うずくような痛み、差し込むような痛み [体性痛]
  • 痛む部位がはっきりしない鈍い痛み。深く絞られるような、押されるような痛み、ひきつるような痛み [内臓痛]
  • ジンジン、ビリビリなどのしびれの感覚、触るなどの刺激によって生じる痛み。刃物で刺すような痛み、焼けるような痛み、電気が走るような痛み [神経障害性疼痛]

主な原因・特徴

がんによるもの

  • 骨転移(肺がん、乳がん、前立腺がんで骨転移をきたしやすい)
  • 頭頸部がん、肺がん、乳がんでは前立腺がんと比べて痛みを生じる場合が多い(前立腺がんでは骨転移があっても痛みは少ない場合が多い)
  • 頭痛は脳転移、脳腫瘍の増大、副腎腫瘍による発作性の高血圧が主な原因

がん治療によるもの

  • 術後の痛み(開胸術後、乳房切除後の痛みなど)
  • 化学療法による神経障害による痛み
  • 放射線照射による痛み

がん以外によるもの

  • 肩こりなどの筋肉のこりや関節の痛み、目の疲労による筋肉の緊張が原因の頭痛
  • 脳の血管に障害が起きることによる頭痛(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞)
  • 帯状疱疹たいじょうほうしん脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょうなど

がん患者さんの半数以上が痛みを感じており、抗がん療法中で55%、進行がん・転移のある患者さんや終末期の患者さんの66%が痛みを有しているとされます1), 2)。そして痛みを有する患者さんの38%が中等度以上の痛みを訴えておられることが報告されています1), 2)
がんに伴う痛みは、がんが骨や筋肉などにひろがって生じる鋭い痛み(体性痛)、胃・腸、肺、卵巣などの内臓にがんがひろがって生じる鈍い痛み(内臓痛)、がんが神経を圧迫するなどして生じる痛み(神経障害性疼痛)に分けられますが、どれか1つだけが起きることは少なく、3つの痛みが混じり合って現れることがしばしばあります。

また、痛みが発現するパターンにより、半日以上痛みが続く「持続痛」と、持続痛による痛みは軽いものの一時的に強い痛みが繰り返し現れる「突出痛とっしゅつつう」とに分けられます。
痛みはその人個人の感覚なので、本人にしかわかりません。人それぞれ感じ方も違います。痛みをがまんしていると、次第に痛みに敏感になり、ますます痛みが強くなるという悪循環に陥ってしまうことがあります。「弱音を吐きたくない」、「痛みを訴えるのはわがままだ」などとがまんせず、適切ながんの治療を受けてできるだけ自分らしい生活を送るために、主治医や看護師に相談しましょう。今は痛みの強さに応じて段階的に色々な種類の鎮痛薬が使えます。持続痛に対して毎日定期的に使う痛み止めに加え、急に強い痛みが出たときや、痛みが出てくる時期を予測できる突出痛に予防的に服用して痛みを軽減するとん服薬(レスキュー薬とも呼ばれます)が、患者さんごとに適切な種類と量を調整して処方されます。無理をせずに、主治医や看護師に痛みを伝えてください。その際、「苦痛がない状態をゼロとすると、今は8くらいの強い痛みがある」、「痛くて眠れない」など具体的に話してみると伝わりやすいでしょう。

【コラム】この頭痛はがんの痛み?

頭痛には、がんに関係する頭痛とそうではないものがあります。がんに関係するものとして、がんの脳転移や脳腫瘍の増大により頭蓋内の圧力が高まって脳を圧迫し「頭痛」を生じることもありますが、放射線療法などのがんの治療に伴う脳のむくみ、感染症、高血圧も頭痛の原因となります。がんとは関係のないものでは、肩こりや目の疲労などによる筋収縮性頭痛、片頭痛、副鼻腔炎による頭痛などのほか、くも膜下出血や脳梗塞などの症状として頭痛が現れることがあります。時として頭痛は生命にかかわることもあるので、今までに経験したことがないほどの痛みや、頭痛と同時に吐き気やおう吐、けいれんを生じる、朝早くだけに起きる、頭を左右に振ると頭痛がひどくなる、などの兆候があるときは主治医に連絡し、必要に応じて救急車を呼びましょう。

頭を抱える男性のイラスト

痛みを軽減するための工夫

  • 痛みの診断と治療は、患者さんご自身が痛みを伝えることからはじまります。痛みをがまんしないで、必ず主治医、看護師、緩和ケアチームに伝えてください。病院には「麻酔科」、「ペインクリニック」など痛みの治療を専門に行う部門のほか、「緩和ケア認定看護師」(「がん性疼痛看護認定看護師」を含む)、「がん専門薬剤師」などがいる場合もあります。病院外でも在宅診療をしている医師や訪問看護師に相談することができます。
  • 痛みを伝えるときはできるだけくわしく、ありのままに表現することが、主治医、看護師、薬剤師などの医療者にあなたが感じている痛みを正しく知ってもらい、痛み止めの種類や量を決めるための助けとなります。そのためには、第一に痛みの強さを表す方法として「ものさし」を用いる方法がよく使われるので、知っておくと便利です。図のように、(1)0~10までの数字、(2)「痛みがない」から「想像できる最大の痛み(または最悪の痛み)」の間のどのあたりになるかを10cmの線上で示す、または(3)顔の表情で段階を示す方法があります。これらのスケールは、がんの痛みだけでなく、術後疼痛や心筋梗塞の痛みなど、痛みの強さを測るために医療の現場で広く用いられ、なかでも(1)NRSが最も一般的です。
    (1)NRS数値評価スケール、(2)VAS視覚的アナログスケール、(3)FRS表情尺度スケール
    厚生労働省研究班「痛みの教育コンテンツ」改変 次に、「いつ」、「どんなとき(何をしているとき)」に「からだのどこが」、「どんなふうに」痛くなり、「どんなことに困っている/不自由を感じている」といった状況や気持ちを伝えることもとても大切です。
  • 痛みの状況とそれについて聞きたいことなどを医療者に正確に、忘れず伝えるために、痛み日記やメモをつけることが勧められます。日記をつけること自体が目的ではなく、痛みの経過や変化をできるだけ正確に知ることが目的ですから、必ずしも毎日つける必要はありませんが、習慣づけると役に立ちます。病院で決まった日記帳やノートを置いているところも増えていますので聞いてみましょう。
    一般的には次のような内容を書くとよいとされます。
    • 痛みがある部分
    • 痛みの程度(数字や言葉)
    • いつから、どれくらいの時間(期間)
    • どんなとき(そのときの姿勢や動作)、どのように痛かったか
      [例]
      洗濯物を干すために両腕を上げることがつらい
    • 自分で対応した場合、その方法と効果があったかどうか
      [例]
      とん服薬をのんで20分くらいで治まった
      温めると楽になった
    • その日の出来事や思ったこと、感じたこと
      [例]
      子どもの運動会があった
      痛みがつらくてイライラした
  • 定期的な痛み止め、とん服薬などのすべての鎮痛薬は、処方された指示どおりに服用してください。自分の判断で量や回数を増やしたり、服用するのをやめたりしないでください。
  • ヨガやアロマセラピーなど、自分に合ったリラクゼーション法をみつけましょう。
参考
  • 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本緩和医療学会編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版; 第3版, 金原出版, 2020年
  • 日本緩和医療学会編:患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版 金原出版, 2017年
引用
  • 1)van den Beuken-van Everdingen MH, et al. Ann Oncol 2007; 18:1437-1449.
  • 2)van den Beuken-van Everdingen MH, et al. J Pain Symptom Manage 2016; 51:1070-1090.
監修:
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長 森田 達也 先生

(2023年4月作成)