便秘への対策

こんな症状

  • 通常の回数より排便が少ない、または3日以上排便がない
  • 毎日、便通はあるが残便感がある(すっきりしない)
  • 便通が不十分(少量の硬い便がまれに通過する)かつ、排便に困難感を伴う
  • 腹痛、お腹の張り(腹部膨満感)、鼓腸こちょう(胃腸にガスが大量にたまってお腹が張り、たたくとポンポンとつづみを打つような音がする)、おならの回数が増える、排便時の肛門痛、悪心、食欲不振、頭痛、口臭、下痢など多様な症状

主な原因

がんによるもの

《がんの直接的影響》
  • 腸管内、腹部や骨盤内のがんの増大による消化管の圧迫や、消化管が狭くなって便が通過できない
  • がん性腹膜炎のため腸の蠕動ぜんどうが低下している
  • 排便を促すための中枢・末梢神経系の障害
  • がんの骨転移などによる高カルシウム血症
  • がん疼痛
《がんの二次的影響》

便秘の原因として最も頻度が高い。がんの進行につれて日常生活動作(ADL)が低下し、運動量が減ることで便秘が悪化する。また、トイレへの移動が困難な状態になると、無理な体勢で排便せざるを得ないことで便の排出障害を招く。

  • 経口摂取量の低下
  • 食物繊維の不足
  • 日常的活動性(運動量)の低下
  • 脱水
  • 全身衰弱・筋力低下
  • 混乱、抑うつ
  • トイレ環境の変化(普段使い慣れないトイレなど)

がん治療によるもの

  • がんの痛みを緩和するために使用される鎮痛薬や咳止めとして用いられるオピオイドの副作用:《オピオイド誘発性便秘症[OIC]》(【コラム】参照)
  • 消化管手術後の合併症で腸管がふさがったり、狭くなる
  • 開腹手術後の腸管癒着
  • 化学療法による抗がん薬または抗がん薬の副作用対策として用いられる制吐薬の副作用
  • 消化管などへの放射線照射の副作用
  • 合併症の治療に使われる薬(降圧薬、気管支拡張薬、抗不整脈薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬など)の副作用

がん以外によるもの

  • 併存疾患: 糖尿病、甲状腺機能低下、低カリウム血症、腸ヘルニア、憩室けいしつ、直腸脱、裂肛、肛門狭窄、痔核、腸炎など
  • 不安やストレスなど、心理的、精神的緊張

消化管(食道、胃、十二指腸、小腸、大腸)の壁の弱いところが内圧によって外側に押し出され、風船のように飛び出したポケット状のくぼみのこと。通常、大腸(結腸)にできる。憩室ができること自体は病気ではないが、憩室に便がたまり細菌が繁殖すると炎症を起こし、下腹部痛、下痢、便秘および発熱などを症状とする憩室炎が発生する。放っておくと腸に穴が開き(穿孔せんこう)、小腸、膀胱、子宮など他の臓器との間が穴でつながってしまうことがあり、腸内の細菌が他の臓器に入り込むと、尿路感染症や腹膜炎などを起こす。憩室ができる原因は慢性的な便秘のため排便時のいきみによる腸管内圧の亢進、加齢による腸壁の衰えなどとされる。予防のためには、肉や脂質が多く食物繊維が少ない食事を避け、便秘がちにならないよう心掛けることが大切である。

消化管

便秘とは、腸管内容物がスムーズに流れずに停滞し、排便に困難を伴う状態です。排便習慣は個人差が大きく、便秘と感じる状態も様々で、数日間出なくても平気な人もあれば、毎日排便がないと苦痛を感じる人もありますが、生活の質(QOL)に影響を及ぼす点は共通しています。がん患者さんの23〜65%に便秘が出現するとされ1)、緩和ケアを受けているがん患者さんで下剤が必要となるのは、オピオイドを投与されていない場合の61~63%に対し、オピオイドを投与されている場合は83~90%であることが報告されています2)。便秘は様々な理由が重なって生じるため、毎日の排便の有無、量や硬さを記録すると、診察時に主治医に報告でき、便秘の原因を見つけることにもつながります。患者さんと医療者が共有できる客観的指標として「ブリストル便形状スケール」(後出)がありますので、参考にしながら「排便日記」をつけてみましょう。

便秘の治療では、1日の排便回数にこだわるより「快適に排便できた」「すっきりした」という感覚が大切です。便秘治療では、便秘の原因を評価し、原因に応じた治療が検討されます。特に、腸閉塞と宿便の有無を調べ、適切な処置を行ったうえで、多くの場合、下剤が使われますが、その目的は排便回数を増やすことではなく、患者さんが気持ちよく排便できることにあります。治療に使う緩下剤(下剤)には、排便を促す作用のしくみによって、①腸管内の浸透圧を高めて腸管内に水分を摂り込み、便に水分を含ませてやわらかくする「浸透圧性下剤」、②大腸を刺激して蠕動運動を回復させ排便を促す「大腸刺激性下剤」、③小腸粘膜からの水分分泌を促し、便をやわらかくする、あるいは胆汁酸の再吸収を抑えることで大腸における水分分泌、蠕動を促す「上皮機能変容薬」、④消化管のオピオイド受容体に結合してオピオイドの作用に拮抗する「末梢性オピオイド受容体拮抗薬」など様々な種類があり、剤形としては飲み薬、坐薬、浣腸が使われています。がんの治療中の便秘に対する下剤の使用は、下剤の開始時期、作用のしくみによる使い分けや併用、使用量など、医師の診断と指示に従って正しく使用しましょう。もともと使い慣れた市販薬がある場合は、使用の継続、お薬の変更などを含めて主治医に相談してください。ラクトミンやビフィズス菌といった整腸薬により、腸内細菌バランスを整えることも日常的な予防法となります。

【コラム】オピオイド鎮痛薬が原因の便秘《オピオイド誘発性便秘症:OIC》

オピオイド鎮痛薬は、がんの痛みを緩和するために使われ、特に内臓痛に有効とされる鎮痛薬です。オピオイドは中枢のオピオイド受容体に作用して鎮痛効果を発揮する一方、腸管蠕動運動を抑え、肛門括約筋を緊張させる作用もあります。また、腸管壁に存在するオピオイド受容体を介して末梢神経系にもはたらき、消化管運動を抑制します。臓器からの消化酵素の分泌や腸の蠕動運動の低下により、食べた物の消化が遅れ、さらに大腸内に長時間とどまる間に水分の吸収が進み便が硬くなる結果、便秘が起きます。加えて、肛門括約筋の緊張が高まるため排便しにくくなります。このためほとんどの患者さんで、オピオイド使用期間中は継続的に下剤を使うなどの便秘対策が必要となります。オピオイドの副作用による便秘は、2016年5月に国際消化器病学会において、「オピオイド誘発性便秘症(英語頭文字を取った略語:OIC)」として定義付けられました。3)

ブリストル便形状スケール

スケールのタイプ4が健康的な便です。1、2が「便秘」の便、5、6、7が「下痢」に相当します。
毎日排便があるか、硬さや量、形はどうか、また、市販薬を含めて服用した薬や飲食したもの、身体を動かしたかどうかなどを記録しておくと、治療に役立ちます。
便秘の場合は、1日の排便回数にこだわらず「すっきり」感を大切にしてください。

ブリストル便形状スケール
O'Donnell LI, et al. BMJ. 1990; 300(6722):439-440 より作成
参考
  • 田村和夫 他編:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本緩和医療学会編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版, 金原出版, 2020年
  • 日本緩和医療学会編:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版, 金原出版, 2017年
  • 「特集 オピオイド誘発性便秘症」 薬局 2019; 70(6):12-86
  • Doctors File 症状から探す「大腸憩室炎」
    https://doctorsfile.jp/medication/189/(閲覧日:2023年2月28日)
引用
  • 1)Lankin PJ, et al. Palliat Med. 2008 ; 22 : 796-807
  • 2)Bruera E, et al (eds). Constipation and diarrhea. Textbook of Palliative Medicine and Supportive Care. 2nd ed. CRC Press, Boca Raton ; 2015. p559-568
  • 3)Lacy BE, et al. Gastroenterol. 2016; 150:1393-1407

便秘があるときの工夫

便秘に対する非薬物療法として、患者さんご自身やご家族など周囲の方ができる工夫があります。

【無理のない範囲で身体を動かす】

  • 適度な運動や散歩で身体を動かすことは、便秘の予防につながります。特に、腹筋を鍛えると腸の動きがよくなるので、ベッドの上でもできる簡単なストレッチを看護師や理学療法士から教えてもらうとよいでしょう。ベッドからイスに移る運動だけでも効果があるとされます。
  • 「の」の字を描くようにお腹をやさしくマッサージすることも、看護ケアで使われている方法の1つです。
    【のの字マッサージ】

    「の」の字を描くように、おへその下→右下腹部→おへその上→左下腹部と、時計回りに、手のひらで、1~2cmくらい沈む程度の力加減で、指圧しながら、円を描くように押していきます。

    のの字マッサージ
  • 腰やお腹を温めると腸が動き出し便通が促されます。お腹を温める方法として、温タオル、湯たんぽ、カイロなどが使えますが、いずれもタオルで包む、パジャマの上から使うなどして、低温やけどを起こさないよう注意しましょう。市販の蒸気温熱シートも利用できますが、肌に直接貼らないタイプもあるので、必ず使い方をよく読み正しく使ってください。
    《注意》便秘の原因によってはマッサージやお腹を温めてはいけない場合もあります。また、温める温度や時間の長さも含め、事前に必ず、医師または看護師に相談してください。

【水分を十分に摂る】

  • 水分を多く摂ることで便秘が改善するわけではありませんが、脱水予防のために水分を十分に摂りましょう。1日の水分摂取量の目安は約1.5リットルとされますが、病態や治療の影響で変わります。
  • 起床時、毎食後、入浴後、寝る前など定期的な水分補給を習慣づけるとよいでしょう。

【食物繊維を摂る】

  • 食物繊維を多く含む食べ物を積極的に摂りましょう。豆類、イモ類、きのこ類、ごぼう、たけのこ、海藻、こんにゃく、果物などは食物繊維を多く含みます。厚生労働省が定めた食事摂取基準(2020年版)において、1日に必要な食物繊維量は、男性では18-64歳で1日21g以上、65歳以上で20g以上、女性では15-64歳で1日18g以上、65歳以上で17g以上と設定されています1) が、1種類の食品や1回の食事で摂取できる量ではないので、1日の食事の中でバランスよく色々な種類の食品を食べるようにしましょう。

    <食物繊維約20gを摂るためには・・・>

    • 納豆
      納豆6.7g/100g≒6パック(50g/パック)
    • さつまいも
      さつまいも(焼き)3.5g/100g≒2本(300g/本)
    • ブロッコリー
      ブロッコリー(ゆで)4.3g/100g≒2株(250g/株)
    • かぼちゃ
      かぼちゃ(ゆで)4.1g/100g≒ 1/2個(500g)
    • 大根おろし
      大根おろし5.1g/100g≒1/2計量カップ
      青しそ(大葉)
      7.3g/100g≒342枚(約0.8g/枚)
    • こんにゃく
      生いも板こんにゃく3.0g/100g≒4枚(170~200g/枚)
    • バナナ
      バナナ1.1g/100g≒20本(100g/本)
    • キウイ
      キウイ(緑果肉種)2.6g/100g≒8個(大きめ1個100g)
    • ブルーベリージャム
      ブルーベリージャム100g中4.3g

    文部科学省 科学技術・学術審議会資源調査分科会 報告:日本食品標準成分表2020年版(八訂), 2020年
    https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html(閲覧日:2023年2月28日)に基づき算出

  • 乳酸菌や生きたビフィズス菌を含むヨーグルトなどの食品は腸内環境を整え、便秘を和らげてくれます。

《注意》 食欲不振、病気の状態や便秘の原因(腸閉塞、イレウス、腸管癒着、大腸がんなど)によって水分・食事制限がある場合は、主治医や管理栄養士によく相談してください。

【排便環境・排便のリズムを整える】

  • プライバシーが守られた環境で、落ち着いて排便できることが、便通を促す重要な要因です。快適な温度管理(特に冬はヒートショックに注意しましょう)をはじめ、換気などトイレの環境を整えましょう。つまずいたり、家具や物にぶつからないよう、ベッドや居室からトイレまでの安全な経路を確保することも大切です。
  • ご家族や介護に携わる方は、できるだけトイレで排泄できるよう、患者さんの身体状況の変化にあわせて補助、介助を行ってください。トイレへの移動が困難な場合や夜間などは、ポータブルトイレの使用も考慮します。
  • 便意を感じたら我慢をせずにトイレに行きましょう。我慢を続けると腸の動きが悪くなり、便意を感じにくくなります。また、便意がなくても毎朝トイレに行き、排便する習慣をつけるとよいとされます。ただし、便が全く出そうもないのに長時間座り続けるのはよくありません。大腸での腸管内容物を大きく動かす大蠕動は1日に約6回起こり、起床・朝食時と昼食時にピークがあるとされます。朝起きてすぐに、冷たい水や牛乳をコップ1~2杯飲むと自然な便通が得られる場合もありますから、試してみるとよいでしょう。
  • できるだけ洋式トイレが望ましいです。足台を置くなどして、正しい排便姿勢をとることが大切です。排便する時はロダンの「考える人」の像をイメージしながら、前屈みで腹筋に力を入れてみましょう。
    排便によい姿勢
    <排便によい姿勢>

    足台を用いて、背骨と大腿骨の角度が35度になるよう前屈みの姿勢をとると、便の通り道がまっすぐになり、余計な力みなくストンと排便できます。
    トイレ用足台はインターネットなどでも販売されています。

【こんなときは相談を】

  • 3日以上、排便がない。
  • 下剤を使ったのに1〜2日たっても便が出ない。
  • 腹痛がある、便は出ないのにおう吐がある、おなら(排ガス)が出ない、腹部膨満感があるときは、腸閉塞の可能性もあるので、すぐに主治医や看護師に連絡をしてください。
参考
  • 田村和夫 他編:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
  • 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 日本がん看護学会監修:病態・治療をふまえたがん患者の排便ケア, 医学書院, 2016年.
  • 国立がん研究センター がん情報サービス 「便秘」
    https://ganjoho.jp/public/support/condition/constipation.html (閲覧日:2023年2月28日)
引用
監修:
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長 森田 達也 先生

(2023年5月作成)