出血(喀血かっけつ、吐血、下血げけつ、血尿、体表からの出血)への対策

こんな症状

【喀血】

  • 咽頭・気管・気管支・肺胞から出血した血が咳と一緒に吐き出る、または血が混じったたんとして出ること
  • 多くの場合、鮮やかな赤色をしているが、数時間以上肺の中にたまった血が出てきた場合は黒っぽい色の血液・痰となる。血液に泡が混じっていることが多いのが特徴
  • 呼吸困難、胸が苦しい、喘鳴ぜいめい(呼吸をするときにヒューヒュー、ゼ―ゼ―と音がすること)などを伴う。喀血が起きる前には咳、痰、胸の痛み、胸部圧迫感、胸に生温かい液体が込み上げてくる感じなどの症状がみられる
肺

【吐血】

  • 胃・食道・十二指腸などの口に近い側の消化管(上部消化管)からの出血が口から吐き出ること
  • 胃酸により酸化されるため赤黒い色となるが、胃を通らない食道からの出血や、胃・十二指腸からの出血でも、貯留せずすぐに吐き出すほどの大量出血の場合は鮮血を吐血する。血液には粘り気があり、泡立ちは認められない
  • 悪心、胃のむかつきなどを伴い、おう吐と共に吐き出されることが多い。出血が多いときは下血(黒色のタール便)も伴う

【下血・血便】

  • 消化管からの出血が肛門から出ること
  • 胃や十二指腸などの小腸上部のように出血部位が肛門から遠いほど、消化液や腸内細菌の作用を受けてコールタールのような真っ黒の黒色便(タール便)となり、上行結腸~直腸の出血では赤褐色から鮮紅色、直腸・肛門出血の場合は鮮紅色となる
  • 見た目にはわからず、検査で便に血液が混じっていることが確認できる状態を便潜血という

【血尿・出血性膀胱炎】

  • 血尿は尿に赤血球が混入した状態のこと
  • 肉眼で尿の色が赤みがかっているなどと確認できる「肉眼的血尿」と、肉眼ではわからない程度の「顕微鏡的血尿」とに分類される。後者は、尿検査で尿潜血陽性と判定される場合である
  • 出血性膀胱炎とは出血を伴う膀胱炎で、尿が赤みを帯びる(血尿)、頻繁に尿意をもよおし排尿回数が増える(頻尿)、排尿時に痛い(排尿時痛)、排尿後も尿が残っている感じがする(残尿感)などの症状がみられる

【体表からの出血】

  • 血小板減少によりみられる出血傾向の症状として、皮膚表面に赤や紫色の点状の出血が出現する、青あざができやすい(皮下出血)、鼻血、歯茎からの出血、生理の出血が止まりにくくなる・量が多くなるなど

主な原因

がんによるもの

  • 【喀血】 呼吸器(肺、気管支、喉頭・咽頭など)のがん
  • 【吐血】 消化器(食道・胃・十二指腸など)のがん
  • 【下血・血便】 消化器(食道・胃・十二指腸・小腸・大腸・肛門)のがん
  • 【血尿】 膀胱がん、前立腺がん、腎盂じんう・尿管がん(尿路上皮がんなど)※1、腎細胞がん※2など
    ※1 腎臓の腎実質でつくられた尿が集まる腎盂という組織と、排泄のため腎盂から膀胱へつながる尿管に発生するがんの総称。腎盂→尿管→膀胱→尿道とつながる尿の通り道である尿路の内側は、尿路上皮と呼ばれる粘膜でできており、ここに発生するがんが尿路上皮がんで、腎盂・尿管がんのほとんどを占める。
    ※2 腎実質の細胞ががん化したもので、腎盂がんとは区別される。
    内臓
  • 【体表からの出血】悪性黒色腫、がんの皮膚浸潤や皮膚転移により生じる悪性皮膚潰瘍など
  • 多発骨転移を伴う固形がん、白血病、悪性リンパ腫の骨髄浸潤が原因の血小板減少
  • がんが引き金となり発症した播種性血管内凝固症候群[DIC]による血小板減少(【コラム】参照)

がん治療によるもの

  • 抗がん薬の副作用(血小板が減少して出血しやすくなる、傷をふさぐ機能が低下して出血するなど)
  • 胸部への放射線照射により、もろくなった血管壁が破れて出血する【喀血】
  • 放射線療法・化学療法により骨髄の血液を造る働きが抑えられ(骨髄抑制)、血小板が減少する

がん以外によるもの

【喀血】
  • 気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症、肺結核などの呼吸器疾患
  • 心不全
  • 肺動静脈奇形の破裂、大動脈解離の急性期・術後
  • 全身性エリテマトーデスの合併症としての肺胞出血
  • 血液を固まりにくくさらさらにするお薬(抗血小板薬、抗凝固薬、血液凝固因子阻害薬など)、一部の抗不整脈薬、抗てんかん薬・抗けいれん薬、免疫抑制薬などの医薬品の副作用としての肺胞出血
など
【吐血】
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 急性胃粘膜病変
  • 食道静脈瘤
  • マロリーワイス症候群1) 多くが飲酒を原因として、繰り返す激しいおう吐のために食道に圧が加わり、食道の下部と胃の入り口付近の粘膜が裂けて出血する病気。新鮮血の混じった吐血で、通常は胸痛や腹痛は伴わない。吐血を主な症状とする上部消化管出血の5%前後を占める。イレウスや便秘が原因の度重なるおう吐により発症する場合もある。
  • 医薬品の副作用としての消化管出血
など
【下血・血便】
  • 痔、裂肛
  • 大腸ポリープ
  • 小腸・大腸の憩室けいしつ出血による血便・下血(憩室の炎症や硬い便など機械的刺激による血管の破綻)
  • 虚血性大腸炎、感染性腸炎(アメーバ赤痢、偽膜性腸炎など)、薬剤性腸炎
  • 潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性の病気でみられる粘液が混じった粘血便
  • 医薬品の副作用としての消化管出血
など

※ 憩室→「便秘への対策」を参照

【血尿・出血性膀胱炎】
  • 尿路感染症
  • 尿路結石・腎結石
  • 腎炎
  • 医薬品の副作用
など

肺がんでは25〜30%の患者さんで喀血が、腎がんでは診断時に10%の患者さんに血尿がみられるといわれます。膀胱がんの85%は肉眼的血尿がきっかけとなって発見されます。消化管出血は吐血、下血、血便などを呈し、下血は大腸がん患者さんの10~20%にみられます2)。吐血は上部消化管からの出血であり、小腸、大腸の出血では吐血はみられませんが、下血は、下部消化管(小腸、大腸)・上部消化管(食道、胃、十二指腸)どちらの消化管からの出血もその原因となり得ます。言い換えれば、上部消化管からの出血は、吐血および下血の両方の原因になります。
一般に肺、肝臓、腎臓などの臓器はたとえその機能の7割以上が失われても、生命を脅かすことはありませんが、血液の30〜45%が失われると命に関わる3)ため、がん患者さんは常に出血のサインに気を配っておく必要があります。
出血が進むと貧血状態となり、ふらつきや目の前が真っ暗になるなどの自覚症状が現れます。少量ずつの出血でも長引く出血や、出血量が多い場合は血圧の低下、頻脈(脈が速くなる)、息切れといった症状がみられ、さらに血液の循環が悪くなると出血性ショックを起こし、危険な状態になる可能性もあります。大量出血の場合は、すぐに救急車を呼び、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。時間をおいて再び出血が起きる恐れもありますから、救急車の到着を待つ間、周りの人は、救急隊の指示に従うとともに、出血性ショック状態を示す次の5つの徴候に気をつけて、患者さんの様子を見守ってください。

  1. 顔面蒼白:顔から血の気が引き、蒼白になった状態
  2. 虚脱:急激に全身の血液の循環が悪くなり、急速な意識障害を来す状態
  3. 冷汗
  4. 脈が弱くなり脈拍を触知できない
  5. 呼吸が正常に保てなくなる

緊急時の応急処置として、仰向けに寝かせ、両足の下に毛布や布団を入れて15~30cmくらい上げた位置に保ち、頭を低くする「ショック体位」は、脳血流の維持および心臓へ血液を戻りやすくする助けとなるとされます。吐血の場合はおう吐物や出血による誤嚥ごえん・窒息を防ぐため、顔を横向けにして注意を払いましょう。

《ショック体位》
ショック体位

口から血を吐いたり、下血があれば、誰でもびっくりしてパニックになってしまうかもしれません。しかし、できる限り落ち着いて、すみやかに主治医に連絡を取る、医療機関を受診することができるよう、日常から自分の病気についてある程度の知識や情報を得ておくと少し安心できるかもしれません。出血があったときは、できるだけ出血の量・色調・出方・出血とともに起きた症状を確認し、医師に伝えられると診断の助けになることがあります。可能なら、吐き出した血液をぬぐったティッシュペーパーやハンカチ・タオルなどを受診時に持参するとよいでしょう。

【コラム】血小板減少について

血小板とは、骨髄で造られる血液の成分の1つで、血管が破れて出血したとき、破れた部分に集まってきてこれをふさぎ、 血を止める働きをする細胞です。がん患者さんでは、がん自体や抗がん薬による化学療法および放射線療法の影響により、 骨髄にある造血幹細胞という血液細胞の素になる細胞が障害を受け、十分に血液を造ることができずに、血小板の数が減少してしまいます。
血小板数の正常値は15~35万/µLで、10万/µL以下が血小板減少症とされています。多くの場合、5万/µL以下に血小板が減少すると出血しやすくなり、【体表からの出血】に示したような症状がみられます。血小板減少は抗がん薬投与後7~14日に現れやすいですが、同じお薬でも数ヵ月、数年後に現れるような場合もあり、個人差があります。ただし、原因と考えられる医薬品を過去に投与されている場合は、同じお薬では投与後数時間~5日以内に発現することが多いとされます4)
血小板減少(症)は抗がん薬をはじめ、解熱・鎮痛・抗炎症薬、抗凝固薬/抗血小板薬、一部の抗菌薬、降圧薬、抗てんかん薬、抗うつ薬および抗精神病薬など数多くの医薬品の副作用として知られています。また、医薬品だけでなくサプリメントにも出血傾向を高めるものがあり、ビタミンB12、ビタミンK、葉酸、亜鉛の欠乏も出血を悪化させる原因となります5)。日頃から、抗がん薬以外に服用している処方薬や市販薬のほか、サプリメントや健康食品についても製品の名前、服用量、いつから服用しているかなどをメモしておき、受診時には持参して主治医に伝えるようにしましょう。また、市販薬やサプリメントについては、出血傾向を生じるかどうかをあらかじめ薬剤師に相談しておくと、症状に早く気付くことができたり、気に留めておくことができます。

播種はしゅ性血管内凝固症候群 [DIC]6)

前立腺がん、膵がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、消化器がんや急性白血病などが引き金となって発症し、全身の細い血管に血栓(血の塊)ができることで、脳、肺、呼吸器、腎臓など全身の主要な臓器が正常に機能しなくなり、多臓器不全を起こすこともある重篤な病気。血栓形成に伴い、血液中の凝固成分(血を固まらせる成分)や血小板が使い果たされて減少する一方で、大量に発生した血栓を溶かすため、線溶系という血管内の血液の塊を溶かすしくみが過剰に反応する。吐血、下血、血尿および全身に出血症状が起き、ショック状態に陥ることもある。

参考
引用
  • 1) 厚生労働省 e-ヘルスネット 健康用語辞典「マロリーワイス症候群」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-054.html(閲覧日:2023年2月28日)
  • 2) 櫻井宏樹:大量出血. 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
  • 3) Marino PL 著(稲田英一 監訳):出血と血管内用量減少. ICUブック 第4版,
    メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015年, p161-177
  • 4) 医薬品医療機器総合機構 重篤副作用疾患別対応マニュアル(患者・一般の方向け) 「血小板減少症」 令和4年2月改訂
    https://www.pmda.go.jp/files/000245298.pdf(閲覧日:2023年4月25日)
  • 5) 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年. p.296-304
  • 6) 医薬品医療機器総合機構 重篤副作用疾患別対応マニュアル(患者・一般の方向け) 「播種性血管内凝固」
    令和3年4月改訂
    https://www.pmda.go.jp/files/000240153.pdf(閲覧日:2023年4月25日)

出血したときの対処と出血リスクがあるときの工夫

【出血したときは】

  • 皮膚からの出血時は、清潔なタオルやガーゼで血が止まるまで直接圧迫します。冷却まくらや氷水を入れたビニール袋などで、冷やしすぎない程度に出血部位を冷やします。
  • 鼻血が出たときは、氷で冷やし、小鼻を指で5分程度圧迫します。
  • 出血が止まるまでは最も楽な体位で安静にしてください。
  • 口から血を吐いたときの応急処置は、頭を低くして足の位置を高くし、誤嚥を防ぐため顔を横に向けます。(ショック体位の図を参照)
  • 喀血時は、血液を飲み込まないよう、ゆっくり呼吸することが必要です。深呼吸やくしゃみをせず、会話も避けましょう。
  • 吐血時は、喀血と見分けることも必要となるため、医師により出血部位が特定できるまで、絶飲食としてください。

【転倒、外傷、打撲に注意する】

  • けがにつながる激しい運動は避けましょう。
  • カーペットの毛足や敷居の段差などにつまずいて転ぶことがあります。段差をなくす、壁に手すりをつける、つまずきの原因やすべりやすい敷物などは敷かないなど、転倒防止策をとりましょう。
  • 酔っ払って転倒しないよう、お酒は控えましょう。
  • 手袋や靴下を着用し、なるべく肌を露出しないようにしましょう。
  • ひげそりには、肌を傷つけにくい電気カミソリを使うようにしましょう。

【こすりすぎ、力みすぎを避ける】

  • 手の爪は短く切りそろえ、皮膚を強くいたりこすったりしないよう気をつけましょう。
  • 歯ブラシは柔らかいものに替え、鼻をかむときは力を入れずにやさしくかみましょう。
  • 排便時に強くいきまないようにしましょう。また、食物繊維が豊富な野菜や乳酸菌入りのヨーグルトなどを意識的に食べ、快適な便通を維持できるようにしましょう。

【セルフチェック】

  • 毎日、尿に血が混じっていないか、便が黒っぽくないかを確認しましょう。
  • 口の中や歯茎からの出血がないか、確認しましょう。
  • 口腔ケア、陰部・肛門部の清潔を保ち、感染を予防しましょう。

【こんな時は相談】

  • 特に物理的刺激や、刺激物を食べていないのに口の中の粘膜や歯茎から出血している、傷口からの出血が止まらない、あるいは血便が出たようなときは、すぐに主治医や看護師に連絡しましょう。
参考
監修:
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長 森田 達也 先生

(2023年5月作成)