悪心(吐き気、むかつき)・おう吐への対策
こんな症状
- むかむかして、吐きたい気分が続く状態
- 空えずきで胸が苦しい
- むかむかに続いて突然、吐くこともある
- 特定のにおいに反応して吐き気が生じる
主な原因
がんによるもの
- がんの増大に伴う消化管のせばまりや圧迫
- 脳腫瘍・脳転移による頭蓋内圧の高まり、おう吐中枢への刺激、便秘 など
がん治療によるもの
- 抗がん剤(化学療法)や放射線治療、症状の緩和のために使われる薬(オピオイドなどの鎮痛薬、抗うつ薬等)の副作用
がん以外によるもの
- 胃炎、胃潰瘍など
- 精神的・心理的な刺激(緊張、不安、におい、音、味覚など)
悪心・おう吐が続くと十分に栄養を摂取できずに全身の状態が悪くなるため、がんの治療を続けることが難しくなります。このため、最近は悪心・おう吐を和らげるために、制吐薬だけでなく色々な対策がとられるようになりました。
【コラム】悪心、おう吐があるときにできることは?
食事の量や回数、調理法などを見直すことで悪心・おう吐が軽減されることがあるので、看護師や管理栄養士に相談してみましょう。不安や緊張が原因で起こる悪心やおう吐については、心身をリラックスさせるために抗不安薬が処方されることもあります2)が、不安を鎮めるために自分に合ったリラクゼーション方法を試す、全身の筋肉の緊張と脱力を繰り返すことにより心身を緩める「漸進的筋弛緩法」や呼吸法を理学療法士などに教わることもよいかもしれません。
【漸進的筋弛緩法】
ストレス状態のときは、無意識のうちに筋肉が緊張しています。全身の筋肉を順番に、いったん意識的に力を入れて緊張させた後、急速に脱力することでリラックスする方法が漸進的筋弛緩法です。簡便法もあり、日常生活の中や、ベッドの上でもできるので、力を入れたときと抜いたときの感覚を味わえるよう練習してみましょう。
漸進的筋弛緩法の<やりかた>については、大阪府こころの健康総合センター発行のリーフレット「気軽にリラックス」にイラスト入りでわかりやすく説明されていますので、ご参照ください。
「気軽にリラックス」 大阪府こころの健康総合センター 2015年3月発行(2023年3月15日閲覧、https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/13282/00000000/relax2015.pdf)
悪心、おう吐を防ぐための工夫
【引き金となる原因を取り除く・環境を整える】
- 芳香剤や生花なども含めて強い香りのものを身の周りに置かず、においがこもらないようこまめに換気しましょう。ご家族やケアをする方の香水、整髪料などの香りにも配慮しましょう。
- 便秘が吐き気につながることがあるので、便秘気味のときは主治医や看護師に相談してください。
- ベッドのギャッジアップやクッションの使用などで、楽に感じられる姿勢を取ることができるよう工夫してみましょう。
- お腹の周りを締め付けないゆったりとした服装を心がけましょう。

【食事】
- 食事はおかゆ、うどんなど消化のよいものを選び、少しずつお腹に入れましょう。1回の量を減らし、食事回数を増やすこともよいでしょう。回数や時間にとらわれず、吐き気が少ないとき、食べたいときに、おいしいと感じられるものを食べられる量だけ食べましょう。
- 冷たいもの、のど越しのよいもの、やや酸味があるものは比較的食べやすいでしょう。一般的に、温かい状態より冷ました方がにおいは少なくなります。
- 調理の工夫として、すりつぶす、蒸す、煮る、ゆでると消化によく、ゼリーやジュースなどの食べやすい形にするといった方法があります。
- おう吐や下痢により、消化管を通して体内のカリウムが失われると、低カリウム血症という状態を起こす可能性があります。カリウムは細胞、神経、筋肉が正常にはたらくために必要なミネラルで、血液中のカリウム濃度の低下は、筋肉のけいれんやひきつり、麻痺のほか、心臓の拍動に影響をあたえ、不整脈の原因となる場合があります。カリウムは豆類、ほうれん草や小松菜などの緑色の葉野菜、里芋・さつま芋などのイモ類、肉、魚、ひじき・わかめなどの海藻類、バナナ、アボカドなど多くの食品に含まれます。
食事のときも食べやすい姿勢を取り、ご家族や親しい人と一緒など、リラックスして食事を楽しめる環境をつくることは、心理的原因を取り除く方法となります。
食後は、からだの右側を下にし、頭を少し高くして横たわると、吐き気が起こりにくいことがあるとされます。
【口腔ケア】
- 口の中を清潔に保つことは大切です。歯磨きやうがいで悪心・おう吐が起きるときは、少量の冷水やレモン水で数回に分けてうがいを行うとよいでしょう。

【その他】
- 悪心・おう吐については、筋緊張を和らげるマッサージや
“内関” という手首の内側近くにあるツボの指圧、アロマテラピー、漸進的筋弛緩法に加え、近年注目されているマインドフルネスなど、様々な研究が行われています。治療法として効果が報告されているものもありますが、いずれもまだ明らかな効果が確立しているとはいえません。取り入れてみたい方法がある場合は、自分に合う方法かどうかも含めて、主治医や看護師、理学療法士、臨床心理士などに相談してみましょう。

- 参考
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- 田村和夫 他編著:がん患者の症状 まるわかりBOOK, 照林社, 2018年
- 日本緩和医療学会編:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017年版, 金原出版, 2017年
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日本癌治療学会編:制吐薬適正使用ガイドライン第2版(一部改訂版 ver.2.2), 金原出版, 2018年
(2023年2月28日閲覧、http://www.jsco-cpg.jp/item/29/index.html) - 日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版, 南江堂, 2019年
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国立がん研究センター がん情報サービス「吐き気・嘔吐」
(2023年2月28日閲覧、https://ganjoho.jp/public/support/condition/nausea.html)
- 引用
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- 1)日本緩和医療学会編 がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版 第2版, 金原出版
-
2)日本癌治療学会編 制吐薬適正使用ガイドライン第2版(一部改訂版 ver.2.2), 金原出版, 2018年
(2023年2月28日閲覧、http://www.jsco-cpg.jp/item/29/index.html)
- 監修:
- 社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 緩和支持治療科
副院長 森田 達也 先生
(2023年5月作成)