Step3.がん免疫療法
6がんに対する免疫による攻撃力を高める治療法 – 受動免疫療法
体の外で攻撃力を高めた免疫細胞や、人工的に合成した抗体を投与する受動免疫療法
体のなかでは、がんによって免疫のはたらきにブレーキがかけられている状態のため、体の外で免疫細胞を増やしたりパワーアップさせてから体に戻したりする方法である受動免疫療法が期待されています。主に受動免疫療法は、リンパ球を用いる養子免疫療法である非特異的リンパ球療法、がん抗原特異的T細胞療法と、抗体療法に分けられます。
非特異的リンパ球療法は、免疫細胞であるリンパ球を体の外に取り出して増やし、攻撃力を高めてから体の中に戻す治療法です。この治療法にはいろいろな種類がありますが、中でもがん抗原特異的T細胞を使った治療法に期待が寄せられています。

非特異的リンパ球療法
1980年代には、患者さん本人の血液から免疫細胞を取り出して、サイトカインなどの刺激を与えパワーアップした免疫細胞(T細胞やNK細胞)を再び体に戻すLAK療法が注目されましたが、その効果は十分ではありませんでした。
現在では、がん細胞のみに効果がより発揮できる治療法に移行しており、がん抗原特異的T細胞を使ったさまざまな治療法が期待され、開発が進められています。
がんをみつける能力を人工的に持たせたT細胞を使って、がんへの攻撃力をさらに高めた次世代のがん抗原特異的T細胞療法
リンパ球としてT細胞を使った治療法として、血液中のキラーT細胞を用いた治療法やTIL療法(腫瘍浸潤Tリンパ球を用いた治療法)が行われてきました。これらの治療法は、どちらも体から取り出したT細胞を活発にしてから再び体に戻します。血液中のリンパ球を用いた治療法では、取り出したT細胞にがん細胞の特徴を覚えさせてから体に戻します。すなわち、攻撃するがん細胞の情報を、攻撃の実行部隊であるT細胞にしっかりと伝えておくのです。一方、TIL療法では、がん組織に入り込んで、がんの特徴を覚えているがん抗原特異的T細胞を使います。すでに異物を見つけ出して攻撃する能力を持った免疫細胞を体の外で増やして、再び体に戻します。
これらの治療法も、効果が出る患者さんは一部に限られたため、より多くの患者さんに有効な治療法が望まれていました。
がん抗原特異的T細胞療法
現在の最先端の研究では、遺伝子組み換え技術を用いて、がん抗原の受け皿であり、がん抗原に特異的な「T細胞受容体(TCR)」を持ったT細胞を、体の外でたくさん作ることができるようになり、それらのT細胞を実際にヒトに投与した場合の効果が検討されています。
また、TCRの他にも「キメラ抗原受容体(CAR)」を持ったがん抗原特異的T細胞による治療法の研究も進み、効果が認められつつあります。
- がん抗原特異的T細胞療法(T細胞を使った治療法)
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- がん細胞を見つけ出して攻撃するT細胞のはたらきを利用する
- 血液T細胞療法:血液から取り出したT細胞にがん細胞の特徴を体の外で伝えて、体に戻す
- TIL療法:すでにがん細胞の情報をもっていてがん細胞を攻撃できるT細胞をがんから取り出して、体の外で増やして体に戻す
- TCR/CAR-T細胞療法:次世代の治療法として、人工的にTCRやCARを持ったがん抗原特異的T細胞を作り、体に投与する治療法の開発が進められている

がんを直接攻撃する抗体療法
免疫細胞のうち、B細胞は「抗体」という武器を使って異物を攻撃しています。この抗体を人工的に合成して薬として利用する治療法である「抗体療法」が2000年代から盛んに開発されてきました。抗体には、攻撃に使う武器としての役割だけでなく、本来の特徴として、たくさんの異物から目印のある異物のみを見分けることができます。すなわち、抗体は、正常な細胞にはなく、がん細胞のみにある物質や、正常な細胞よりもがん細胞の方によりたくさんある物質などを見分けてピンポイントで結合します。
これらの特徴を利用して、がん細胞に対する抗体を利用すると、抗体を目印として集まってきた免疫細胞のはたらきによって、がん細胞は攻撃されます。
また、抗体ががん細胞に結合すること自体によって、がん細胞が増えるのを食い止める場合もあります。
最近では、がん細胞が増えていくために栄養を取り入れている血管が増えるのをブロックする抗体なども開発され、実際のがん治療に利用されています。

抗体は、がん細胞に結合することにより、「ここにがん細胞がいるぞ!」という目印となる。この目印を見つけた免疫細胞が、がん細胞のまわりに集まってきて攻撃を加えることにより、がん細胞が増えるのを食い止める。
また、抗体ががん細胞に結合すること自体により、がん細胞が増えるのを食い止める場合もある。
- がんを直接攻撃する抗体療法(抗体を使った治療法)
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- B細胞が作り出す、異物を攻撃する武器である「抗体」を使う
- がん細胞の特徴に合った抗体を人工的に合成し、薬として利用する抗体を目印にして集まる免疫細胞のはたらきを利用して、がん細胞を攻撃する
- 抗体ががん細胞に結合すること自体により、がん細胞が増えるのを食い止める場合もある
- がん細胞が増えていくために必要な血管が増えるのをブロックする抗体が開発されている
- 監修:
- 慶應義塾大学 医学部 先端医科学研究所
所長 細胞情報研究部門
河上 裕 先生