Step3.がん免疫療法
6がんに対する免疫による攻撃力を高める治療法 – 能動免疫療法
体内での免疫反応を引き起こす、能動免疫療法
体のなかで免疫を高めて、がんに対する攻撃を引き起こす方法は、能動免疫療法と呼ばれています。「非特異的免疫賦活薬」という薬を使う方法、「サイトカイン」という物質を体に取り入れて免疫細胞を活発にする方法(サイトカイン療法)、がんの目印である「がん抗原を投与する治療法(がんワクチン療法)」、がんの情報をT細胞に伝える情報伝達役である「樹状細胞」を使った治療法(樹状細胞療法)」などがあります。
免疫療法として最初に開発された非特異的免疫賦活薬
「非特異的免疫賦活薬」は、免疫療法の先駆けとして1970年代以前から研究されてきた免疫療法です。これには、微生物やキノコなどから取り出された成分でつくられた薬や化学物質があります。これらの薬がどのように免疫力を高めているのかについてははっきりとわかっておらず、これらの薬のみでは効果がないことから、手術、放射線療法、薬物療法(抗がん剤など)と一緒に使われます。
- 非特異的免疫賦活薬
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- 微生物やキノコなどから取り出した成分でつくられた薬や化学物質
- 免疫力をアップさせる
- 手術、放射線療法、薬物療法などと一緒に使う
異物を攻撃する免疫細胞を活発にするサイトカイン療法
「サイトカイン療法」は、1980年代に入ってから考えられた免疫療法です。異物を攻撃する免疫細胞を活発にしたり増やしたりするはたらきをもつ物質(サイトカイン)を体に投与して、免疫細胞のがんに対する攻撃力を高めることを目指しています。インターフェロンやインターロイキンと呼ばれる種類の薬が使われます。
- サイトカイン療法
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- サイトカインという物質を体に投与して、免疫細胞を活発にはたらかせる
- インターフェロンやインターロイキンという薬を使う
がん抗原を使ったがん治療法(がんワクチン療法)
がんワクチン療法では、がんの情報をワクチンとして用いて免疫細胞を刺激します。がんの情報として患者さんのがん細胞を用いる方法と、人工的に合成したがん抗原を用いる方法があります。どちらにしても、ワクチンにより体のなかでがん抗原特異的T細胞が活性化され、がん細胞を攻撃する能力が高まります。
※一般にワクチンとは、ウイルスや細菌などによる感染症を予防する薬のことですが、がん細胞を攻撃するためのT細胞を活発にさせるはたらきをもつ、がんの目印であるタンパク質を用いて免疫することを「がんワクチン」と呼んでいます。
- がんワクチン療法(がん抗原を使った治療法)
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- がんの目印である「がん抗原」を投与して免疫細胞を刺激する
- 「がん抗原」をつくるのに患者さんのがん細胞が必要な場合もある
がん細胞の特徴を伝える情報伝達役である樹状細胞を使った樹状細胞療法
樹状細胞は、第一防衛ラインの自然免疫が攻撃したがん細胞の情報を、第二防衛ラインの獲得免疫に伝えるはたらきをしています。「樹状細胞療法」は、自然免疫から獲得免疫に情報を伝える情報伝達役の能力を鍛えることによって、リンパ球による獲得免疫をさらにはたらかせることを目指した治療法です。
樹状細胞療法では、体から取り出した樹状細胞にがんの目印となるがん抗原の情報を覚えさせ、獲得免疫に関するリンパ球に対してがんの情報を伝える能力を鍛えてから、再び体に戻します。がん抗原の情報をもった樹状細胞を投与することによって、T細胞が体のなかで同じがん細胞を見つけ出して素早く攻撃できるようになるのです。この他に、がん抗原を使わずに樹状細胞を直接がんの中に注入する方法もあります。
- 樹状細胞療法(樹状細胞を使った治療法)
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- がん細胞の目印である「がん抗原」の情報をT細胞に伝える役割をもつ樹状細胞を使う
- 樹状細胞にがんの目印「がん抗原」を覚えさせて体に戻す
- または樹状細胞を直接がんの中に注入する
- 監修:
- 慶應義塾大学 医学部 先端医科学研究所
所長 細胞情報研究部門
河上 裕 先生